目で読む音楽本特集
「ロックで学ぶ世界史」山﨑智之著
音楽は耳で「聴く」だけではない。その背景や歴史、裏話やうんちくを「読む」ことで、より深く豊かに味わえる。音楽評論家や音楽ライターら、プロが書いた「目で読む音楽本」を4冊紹介しよう。部屋の奥でホコリをかぶったレコードやCD、カセットテープを引っ張り出して聴きたくなるかも。
斬新。その一言に尽きる。ロックと世界史を結びつけた、その発想に驚かされるのが「ロックで学ぶ世界史」(リットーミュージック 1900円+税)である。著者は東京生まれ、ベルギー、オランダ、旧チェコスロバキア、イギリスで育った音楽ライターの山﨑智之氏。
ロックは単純なエンターテインメントだけにあらず、社会への怒りや悲しみ、皮肉やアンチテーゼなどメッセージ性の強い音楽でもある。著者いわく、「ロックは時代を担う重要な存在であり、人間を育成し、教育する義務をもつ」とも。
そんなロック音楽の歌詞やテーマにからめて、世界史のエピソードを時系列で解説するという切り口が面白い。古くはキリスト磔刑に始まり、フランス革命、南北戦争、第1次世界大戦などを網羅。資料写真も添えてある。
たとえば、1789年のフランス革命をモチーフにしたのはクイーン。ヒット曲の「キラー・クイーン」で、主人公キラー・クイーンの派手な生活を表現するのに、マリー・アントワネットの逸話を引用して、「“ケーキを食べればいいのに”、彼女はマリー・アントワネットのように言う」と歌っている。
また、1914年、第1次世界大戦のページには、戦争で手足を失った男の悲劇を描いた小説「ジョニーは戦場へ行った」(ドルトン・トランボ著)をそっくりなぞった歌詞で歌うメタリカの曲「ワン」(1988年)を紹介するなど、知らずに聴いていた有名曲の背景を教えてくれる。
1854年、日米和親条約のページでは、初代駐日大使ハリスと唐人お吉の史実に触れながらサザンオールスターズの「唐人物語(ラシャメンのうた)」を紹介、「お吉はロマンチックに描かれ過ぎている気もする」と考察する。
ロックと聞いて「イエー」「ベイベー」「殺せ!」「燃やせ!」などの享楽的あるいは破壊衝動的な歌詞を想像する人も多い。だが、この本を読む限り、ロックの別の一面、人間としての矜持のような熱い意図も感じられるのだ。
多くの命と尊厳を奪う戦争、世界を震撼させた殺人事件や未解決事件など、人々の怒りや悲しみをすくい取るのがロックの「歌の力」でもある。
もちろん、100の歴史的エピソードの中には、日本で起きた事件や災害なども含まれている。鎮魂歌の要素が強いものも多い。中高生の歴史教科書に推薦したい……とまではいかないが、この試みと新奇性には脱帽する。