「なぜニワトリは毎日卵を産むのか」森誠氏
一日が目玉焼きで始まる人は、結構多いのではないだろうか。庶民の重要な栄養源の卵で一冊の本を書いてしまったのが、静岡大学名誉教授の森氏だ。専門の家禽の産卵生理の内分泌学的研究というカターい話だけでなく、スタミナ源としてのエピソードなど、使えそうな話がてんこ盛りである。
「ニワトリは24時間で卵を作りますが、20時間くらいは殻を作るのに費やしている。中身を作るのは3時間くらいで、人間がゴミとして捨てるものに時間をかけているんです(笑い)」
卵はほぼ全世界で食べられている食材だが、現在、生で食べる習慣があるのは日本だけらしい。
「シルベスター・スタローンが『ロッキー』をやったとき、ハードなトレーニングに耐えるために生卵を飲んだことで特別のギャラをもらったそうですよ(笑い)。ただし、卵は生では結構もちますが、割ってしまうとその瞬間からサルモネラ菌の繁殖が始まるので、割ったらすぐ使わないと。スタミナ源としては別に生でなくても、茹で卵でも効果は同じです」
あの温泉卵も日本独特の食文化で、英語でも呼び名は「onsentamago」。
「西洋人は黄身が半熟の卵にはこだわるのに、白身のドロドロ感はだめなんですよ」
ニワトリの習性を説明する心理学用語に名を残した、大統領のエピソードも紹介されている。
第30代アメリカ大統領クーリッジの夫人は、ニワトリは一日に何回も交尾することを聞いて、夫に伝えるように言った。ところが、雄鶏の交尾相手は毎回違う雌鶏だと聞いた大統領は、それを夫人に伝えるように命じた。雄鶏は同じ相手だと精液量が減少するが、相手が代わると精液量が回復するそうで、これを〈クーリッジ効果〉というようになったとか。
「クーリッジは寡黙で知られた人物で、パーティーのとき、何言しゃべるか、賭けをしたら、たった二言『I WON』しか話さなかったそうです(笑い)」
その寡黙な大統領も、妻に伝えねばならないことはきちんと伝えたということである。
こんな面白い話をよく収集できるものだとつくづく感心。
「専門的な話ばかりしてると、学生が寝ちゃうので(笑い)」
研究するだけでなく、世界の主な卵料理もしっかり体験している。
「フランスのモンサンミシェルの巨大なオムレツや、袋井市の名物として売り出し中の〈たまごふわふわ〉などは食べました。ベトナムやタイなどでヒナがかえる寸前の卵を食べますが、あれは食べる勇気がない。もう鳥の姿をしていますから」(こぶし書房 2000円+税)
▽もり・まこと 1948年、東京生まれ。東京大学大学院修了。農学博士。静岡大学名誉教授。専門は家禽の産卵生理の内分泌学的研究。主著に「生物の世界」「科学と人間生活」など。現在、静岡で晴耕雨読の日々を楽しんでいる。