街娼18人にインタビューした書き下ろし文庫
「闇の女たち」松沢呉一著 (新潮社 790円+税)
「一番上の孫はもう高校生。今も長女と孫と私は住んでいるんだけど、孫が“おばあちゃん、再婚すればいいのに”って言うの。“淋しいでしょ”って。“淋しくないよ。おまえと一緒にいるから”って言ってるんだけど、ギャンブルと結婚はもういい」
60代になる鴬谷の街娼の証言が生々しい。
本書は、全国の街角に立っていた街娼18人のインタビューを記録した書き下ろし文庫本である。
この鴬谷の街娼はクラブホステス、スナック経営を経て、みずからも街頭に立ってカラダを売るようになった。元夫はギャンブルと暴力というおきまりのケースで、年をとった彼女は、「やるなら今が最後だから、一度やってみようか」と街頭に立つようになった。
街娼は“たちんぼう”とも呼ばれ、風俗業界ヒエラルキーの最底辺に置かれる。繁華街の闇に立ち、客に声をかけ商談がまとまると近くのラブホテルで肉交する。ソープランドやホテトル店に雇ってもらえなくなった女たちが多く、肥満体、70代の女たちが現役で働いている。店のガードがない分、危険と隣り合わせで、80年代に連続して起きた歌舞伎町ラブホテル殺人事件の被害者たちの多くも街娼だった。
1997年、渋谷・円山町で起きた東京電力の超エリート女性社員が殺害された、「東電OL殺人事件」の被害者もまた、会社帰りに円山町ラブホテル街に立つ街娼だった。いずれの事件も未解決のままだ。
街娼をまともに取材・論考した書籍は少なく、本書の存在が薄暗がりのなかから光彩を放つ。
著者はベテランの書き手で、古書・エロ本の他にも、あまりカネになりそうもない研究対象だが、提灯、のれん、銭湯と好奇心は無限大に膨張し、さながら松沢大宇宙を構築している。
松沢呉一は21世紀の高等遊民に違いない。