大トルコ風呂地帯・ちろりん村を記録した幻の書

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「ちろりん村顚末記」広岡敬一著 (筑摩書房 820円+税)

〈「ちろりん村」は忽然とその姿をあらわした。そして、いつの日かおなじように忽然と消えていくのだろう。まるで蜃気楼のように……。〉

 本書の冒頭部分である。風俗ルポルタージュの傑作であり、幻の書と言われてきたこの書が復刊された。

 ちろりん村とは1970年代初頭、滋賀・雄琴の田園に突如誕生した一大トルコ風呂地帯の俗称だった。ちろりん村という呼び名は、丼にサイコロ3つ転がして出目を競うバクチ、ちんちろりんから来ているとされる。トルコ嬢(当時の呼び名。現在はソープ嬢)のヒモたちが暇な時間にあちこちでちんちろりんをやっていた時代であった。

 風俗ジャーナリストの先達・広岡敬一は戦前、陸軍航空隊写真班に配属され、出撃する若き特攻隊員たちの写真を撮ってきた。戦後、新聞社カメラマンを経て記者となる。特攻隊員からトルコ嬢へ。被写体の変化は、広岡敬一に平和を実感させたことだろう。

 本書はトルコ風呂がいまよりもはるかに賑わっていた時代の貴重な記録である。トルコ風呂関係者多数にインタビューしているが、経営者に多くの在日がいるのも、当時の社会事情をうかがわせる。

 トルコ風呂は1984年、トルコ共和国からの留学生の直訴によって、名称の変更を余儀なくされた。当時、新しい名称を各メディアが提唱し百家争鳴となった。山本晋也監督がリポーターを務めた深夜番組「トゥナイト」は「ロマン風呂」、週刊大衆は「ラブリーバス」、われらが日刊ゲンダイは「ルンルン風呂」。

 東京都特殊浴場協会が記者会見で発表した新名称は「ソープランド」だった。当初は不評だったが、現在「ソープ」の愛称で普及している。

 日刊ゲンダイ提唱のルンルン風呂が公認されたら、いまごろエッチすることを「ルンルンする」になっていたであろう。

【連載】裏街・色街「アウトロー読本」

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