「娘と嫁と孫とわたし」藤堂志津子著
タイトルは軽いが、中身は濃い。家族小説をお好きな読者に、自信をもってすすめる傑作小説だ。
帯の惹句がうまい。「いじのわる~い、しかもケチな実の娘」「血のつながりはないけど、けなげでやさしい息子の嫁」「これからずっと、一緒に生活するなら、どっちが幸せ?」とくるのだ。こういう内容で、作者が藤堂志津子なら、これだけで読みたくなる。もちろんこれは帯コピーのためにわかりやすくしただけで、藤堂志津子の小説であるから、実際はそう単純ではない。いじわるでケチな実の娘にもいいところはあり、けなげでやさしい息子の嫁にもいじわるなところはある。
そういうふうに人間は複雑で、その微妙な奥行きの深さを本書は鮮やかに描いている。
それにもうひとつ、女性を中心にした小説によくある展開だが、登場する男どもがろくでもないやつばかり。45歳で独身の秋生という結構いい男も出てくるけれど、これは例外で、だいたいダメ男が多い。男どもがこのように頼りにならないから、女性陣が頑張らなくてはならないという構造が、この手の小説の特徴だが、藤堂志津子の本書も例外ではない。
だから小説の評価を離れて言えば、男性読者としては、複雑な気持ちになる。ここにあるのは母や妻や娘の言い分で、男にも男の言い分があるはずなのに、おまえたちがだらしがないからこんなことを言われるのだ、と言いたくなってくるのである。(集英社 500円+税)