当代一線の論者が原発問題群の「今」を一望
「決定版 原発の教科書」津田大介・小嶋裕一編/新曜社 2400円+税
日本の原子力政策は、いろいろな問題をごまかし後回しにしてきた「出来の悪い小学生の夏休み最終日」状態だった。そこに福島第1原発事故が起きて、カオスの2乗のようになっている。
本書は「教科書」と名付けているだけあって、そうした日本の原発を取り巻く問題群の「今」を見渡す上で、当代一線の論者を揃えたかっこうの入門編だ。
冒頭で編者は、本書ができたきっかけを紹介する。3年前に経産省から連絡があり、当時議論されていた国のエネルギー基本計画で「原発の新設・リプレースが議論の中心になる」から、事前に編者にも意見交換を要請してきたという。
その後、国は原発の新増設に含みを持たせる計画を決定した。他方、その意見交換をきっかけに編者が主宰するウェブサイトで議論を重ね、本書で見るとおり、日本の原発の問題群ははるかに広く深く複雑で、とても「原発の新設・リプレース」を議論するどころではないことを明らかにしている。
今夏、国は再び原発の新増設を軸とする議論を始めたが、いっそう現実離れしてきている。この間、東芝はその原子力事業が原因で破綻の危機に陥っている。福島第1原発の「廃炉」計画は絵に描いた餅で、汚染水すら手に負えず、費用も膨れあがる一方だ。「ゾンビ」化した東京電力は、その「廃炉」費用を国民負担に転嫁して生き延びている。高速増殖原型炉もんじゅの廃炉を決定した以外は、核のゴミや核燃料サイクルも福島の問題群も、進展どころか時間を浪費し混迷を増している。
かつて原子力委員会委員長代理も務めた鈴木達治郎氏が本書で提言する「対立を越えた根本的改革」は傾聴に値するが、それでも原子力ムラや安倍政権には通じないだろう。もはや「推進か脱原発か」ではなく「妄想か現実的か」の対立となっているのではないか。