「院長選挙」久坂部羊著
国立大学病院最高峰に位置する天都大学医学部付属病院では、院長の宇津々が急死したため、新院長選挙が行われることになった。フリーライターの吉沢アスカは新院長の選挙を追いながら日本医療の縮図を描くノンフィクションの執筆を計画する。
早速、院長選の4人の候補者に取材を申し込むが、いずれも変人ばかり。「臓器のヒエラルキー」を公言し内科至上主義を唱える循環器内科の徳富。その内科を目の敵にする消化器外科の大小路。若く革新的だがパワハラをくり返す整形外科の鴨下。利益優先で極度の吝嗇家である眼科の百目鬼。患者のことなど一顧だにせず、他科をののしり自己保身に走る候補者たちにあきれるアスカだが、なぜか4人とも宇津々院長の死に話が及ぶと一様に口を濁す……。
自分の部屋を少しでも広く見せたいと全面ガラス張りにする教授など、常識外れの医師たちが登場し、国立医大の滑稽なまでのヒエラルキーによる権威主義が戯画的に描かれる。国立大学の医局の経験があり現役の医師でもある著者ならではの、大学病院の怖い真実。
(幻冬舎 1600円+税)