「地の星 なでし子物語」伊吹有喜著
静岡の山間部で山林業と養蚕業を営む遠藤家は、代々得た富を集落に惜しみなく投じて地元に貢献してきた。平成のいま、遠藤家は凋落しているものの、本家の豪壮な邸宅常夏荘の女主人である耀子に対して、敬意をもって接している。だから、耀子が山をひとつ越えた集落のスーパーに働きに出ると、常夏荘の女主人が商品を売り場に並べたり、頭を下げてお金のやりとりをするのは許せないというのが、親戚一同の古い世代の考え方だった。ご先祖さまが嘆くというのだ。
しかし耀子にしてみれば、もはやそういう時代ではないこと、さらに自分に何が出来るのか、試してみたいとの気持ちもある。
そのスーパーはもともとは地元資本が経営していたが、大手チェーンに売却し、その親会社から店長として派遣されてきたのが、耀子の元同級生、由香里。彼女の話では、いまのままの売り上げが続くようなら、この店の未来はなく、閉店するのが本部の意向だという。かくて、売り上げを増すためにはどうしたらいいのか、耀子の苦闘が始まっていく。さまざまなアイデアと具体的な工夫と努力が描かれるのだ。
したがって本書は昨今はやりの「お仕事小説」の雰囲気を持つ。しかし本書が、10歳の耀子を描いた「なでし子物語」に続く28歳の巻であること、来年刊行の「天の花」がその間をつなぐ18歳の巻であることを考えると、壮大なヒロイン大河小説の一冊であることも見えてくる。おすすめだ。
(ポプラ社 1600円+税)