「長く高い壁」浅田次郎著
時は1938年秋。当代きっての流行探偵作家の小柳逸馬は、従軍作家として北京に派遣されていたが、突然、前線へ向かうよう要請を受ける。北支那方面軍司令部検閲班長の川津中尉の案内で着いた先は万里の長城の張飛嶺。当地はゲリラの攻撃が頻発し、その守備要員として歩兵大隊が置かれていたが主力は前線に抜かれ、現在は3個分隊30人が警備に当たっていた。そのうち第一分隊10人全員が死亡する事件が発生。小柳にこの事件を解明せよというのだ。
小柳は川津と一緒に、関係者の聞き込みを始める。ところが、現場に残された証拠から推察される事件の概要と証言者たちの供述とがことごとく一致しない。分隊内でのあつれきや軍隊ならではの論理が複雑に絡まり、真相を見えにくくしていたのである。果たして彼らの死因は何なのか、そしてこの調査になぜ探偵作家が呼ばれたのか。
ミステリーの手法を用いながら、「戦争の大義」「軍人にとっての戦争」とは何かという大きなテーマに挑む野心作。
(KADOKAWA 1600円+税)