幅1メートル、長さ8キロにもわたる“盲腸県境”って?
地図をじっくりと見てみると、複雑怪奇な県境が日本のあちこちに存在することに気づく。西村まさゆき著「ふしぎな県境」(中央公論新社 1000円)では、全国13カ所の県境を訪ね、その成り立ちや魅力をルポしている。
県境といえば水上や山の中にあることが多く、目に見えない場合がほとんどだが、ド派手な紫色のラインで示されている県境がある。それは、「イオンモール高の原」内にある県境。京都府木津川市と奈良県奈良市の県境上に建てられており、京都府警と奈良県警が施設内での事件事故の発生場所を分かりやすくするために引くよう申し入れたもの。発生した事案は先に認知した方が応急措置を講じ、のちに犯行現場を所轄する警察に引き継ぐという協定も結ばれているそうだ。
県境を愛するマニアの憧れの場所といえば、新潟県と山形県の間に、福島県が幅1メートル、長さ8キロにもわたって細長く続いている“盲腸県境”。その場所は標高2105メートルの飯豊山にあり、簡単にはたどりつけない場所だ。飯豊山地を含む東蒲原郡は、平安時代の末期に越後の城氏が会津の恵日寺に土地を寄進して以来、会津の一部として、また山岳信仰の盛んな山としての歴史を刻んできた。
しかし明治維新後、内務省は飯豊山と東蒲原郡を新潟県に編入するという処分を下す。これに反発したのが、飯豊山神社を守り続けてきた福島県の一ノ木村だった。その後、16年の歳月を経て、飯豊山神社の参道は福島県の領土だという内務大臣の裁定が下り、紛争は終結。世にも珍しい“盲腸県境”が生まれたのだという。
現地の写真や県境を色分けした地図も掲載。本書を片手に訪ねてみては。