「遺伝子ドライブ」が兵器となり得る兵士を作り出す
映画やアニメの中で、私たちは頻繁に人工生命体を見てきた。しかし、世界の最先端科学技術はすでにそれを現実のものとしている。須田桃子著「合成生物学の衝撃」(文藝春秋 1500円+税)では、この分野のトップランナーであるアメリカの研究者たちに取材を重ね、その現状をリポートしている。
遺伝子を改変したり、人工的に生命を生み出すことについて、多くの人は漠然とした不安を抱くはずだ。しかし、それが人類の役に立つと言われたらどうだろう。例えば、この分野で注目されている「遺伝子ドライブ」というアイデアだ。DNAの合成と編集の最新技術を駆使して生物に改変遺伝子を持たせる技術で、有性生殖で繁殖させることができるため、どんな生物にも適用ができる。病原体への耐性を持たせたり、メスを不妊にさせることも可能で、蚊をはじめとする病気を媒介する昆虫を根絶したり、作物や雑草が獲得した農薬や除草剤への耐性を無効にすることもできるわけだ。
しかし、遺伝子ドライブが人間に利用されたらどうか。アメリカで巨額の予算を付けている国防高等研究計画局、通称DARPA(ダーパ)では、“兵士を強くする研究”が進んでいるという。戦場でも眠らなくてよく、暗闇でも目が見えて、あらゆるウイルスに免疫を持つ兵士が生まれれば、それ自体が“兵器”になり得る。実際、DARPAには兵士の能力強化に関する研究プログラムがあるのだという。
親を持たずコンピューター上で設計された完全なる人工生命体「ミニマル・セル」もすでに誕生しており、研究の背景についてもつづられている本書。人工生命体との共存は、もはや避けられないのかもしれない。