「ドライブインまほろば」遠田潤子著
苦しくなる。いつもそうだ。それなのに、読んでいると苦しくなるのに、遠田潤子の新作が出ると、いつもすぐに読むのはどうしてなのか。
今回の舞台は、峠越えの旧道沿いで細々と営業を続ける「ドライブインまほろば」。そこに幼い妹を連れた少年が、ある日舞い込んでくる。夏休みが終わるまでここに置いてくださいと。冒頭でこの少年が父親を殺したことを読者は知らされている。あとでそれが義父であることがわかるのだが、その義父殺しの場面から本書の幕が開くのだ。
さびれたドライブインを経営する比奈子は幼い2人を受け入れて、束の間の幸せが始まっていく。比奈子には幼い娘を亡くした過去があり、少年たちを受け入れたことにはそういう影響もある。
その近くに、10年に一度だけ現れる幻の池があるという。その10年池で一晩過ごせば生まれ変わることが出来る、というのがこの地に伝わる伝説だ。それを聞いてから少年は、幻の池を探し始める。つまり、彼は生まれ変わりたいのである。義父を殺すような人生ではなく、違う人生を生きたいのだ。幻の池は、少年の夢を映す鏡でもある。はたして少年は10年池を見つけることが出来るのかは、ここに書かないでおく。なぜ少年は義父を殺したのか。その真実はずっと明かされないまま物語は進んでいく。それが噴出するラスト30ページが圧巻。遠田潤子の傑作だ。
(祥伝社 1700円+税)