「すべての医療は『不確実』である」康永秀生著
健康長寿を実現するには、医療に過度な期待を抱かず、賢く利用することが大切だと、東大医学部教授の著者は言う。そのために必要なのは、「科学的根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine=EBM)」であるか否かを見極めることだ。
病院で「風邪」の診断が下ると抗菌薬が処方されることがあるが、ウイルス感染が原因の風邪に抗菌薬は無意味だ。しかし、抗菌薬を飲んだ後に風邪が治った経験を持つ患者は、医師の説明にも聞く耳を持たない。“患者の希望”とあらば、抗菌薬を処方する医師も少なからずいる。医師の間ではこれを、患者を帰すための「グッドバイ処方」と呼んでいるそうだ。しかし、抗菌薬の使い過ぎは薬剤耐性菌の発生という深刻な問題も引き起こす。患者がEBMを知っていれば、無駄な処方をされずに済む。
ただし、研究機関の発表をうのみにするのもよくない。2015年、WHOはハムやソーセージなどの加工肉に発がん性があるという研究結果をプレスリリースし、加工肉は発がん性があるとする根拠のレベルがもっとも高いグループに位置するとした。同じグループの中にはたばこも含まれる。これを受けてメディアは「加工肉は喫煙と同じくらい危険!」と書き立てた。
しかし、科学的に正当な方法で危険性が証明された場合、「危険性のレベル」が低くても「科学的根拠のレベル」は高いとされる。たばこは両者とも高いレベルだが、加工肉の発がん性は科学的根拠のレベルが高いだけで、危険性のレベルは極めて低かった。WHOは後に、「加工肉を食べないよう求めるものではない」と追加声明を出している。
医療の恩恵を受けるには、患者も医療を妄信せず、知識を持つことが必要だ。
(NHK出版 820円+税)