積水ハウスもだまされた地面師詐欺の巧妙な手口
地主になりすまして不動産をだまし取る地面師詐欺。昨年夏に公となった積水ハウスの詐欺被害ニュースに、なぜあれほどの大手企業がいとも簡単に引っ掛かるのかと、疑問に思った人も多いだろう。
しかし、森功著「地面師」(講談社 1600円+税)を読めば、これはだまされるのも無理はないと言葉を失うはずだ。本書は、近年の主立った地面師事件の詳細を追ったノンフィクション。地面師が生まれた歴史的背景や、彼らの巧妙な手口を明らかにしている。
積水ハウスの被害額は、史上最大額といわれる55億5000万円。地面師の犯行グループは、10人前後で構成されることが多い。犯行計画を立てるボスを頂点に、地主役に適した人物を探し、なりすましの演技指導まで行う「手配師」、パスポートや免許証など書類を偽造する「印刷屋」、振込口座を用意する「銀行屋」、そして法的手続きを行う「法律屋」には、本物の弁護士や司法書士が雇われている。
さらに、彼らはペーパーカンパニーを用意して複数の売買を重ね、仲介者を増やして全体像を見えなくする術も駆使している。たとえ警察が動いたとしても全体像は見えず、なりすまし役の一部が罪に問われるのがせいぜい。多くの場合が不起訴処分となり、主犯格は再び野に放たれるという悪循環が起きているのだ。
地面師詐欺のルーツは戦後の混乱期にまで遡り、地主不在となった焼け野原を転売してひと儲けしていた。バブルの崩壊により地面師も活躍の場を失ったが、東京五輪に向けた不動産バブルが起きる近年、息を吹き返しているのだという。
犯行集団の頭目や、名手配師とされる人物たちの素顔にも迫る本書。迫真のドキュメントだ。