「落語の種あかし」中込重明著
落語のほとんどは、狂言や黄表紙、講談、外国の物語を落語化したもの。原話から落語へと作り直される際に、物語は普遍化され、その普遍化こそが聞く者に共感の笑いをもたらす。虚実が複雑に入り乱れ、謎が多い。そんな落語の名作の成り立ちの過程を明らかにする落語本。
人情噺「芝浜」は、酒好きの怠け者の魚屋が、大金が入った財布を拾う噺。これは中国の古典「列子」の「蕉鹿の夢」の故事や元禄時代の咄本などに類話があるという。さらに著者は、夢を利用して夫をだます女房に注目して、江戸時代に既に願望は夢に現れやすいという心理学的な共通認識が人々にあったことを指摘する。
その他、「文七元結」や「大山詣り」など文献を読み解きながら、落語の起源を明らかにしていく落語ファン必見の書。
(岩波書店 1540円+税)