「いつかの岸辺に跳ねていく」加納朋子著
紹介するのが難しい本、というものがある。それは詳しく紹介するとネタバレになってしまうからだ。といっても、ある程度は触れないとその面白さを伝えられない。まったく困った本である。本書がそういう本だ。
「フラット」と「レリーフ」という2編の中編から成る小説で、最初の「フラット」は護の視点で語られる。彼が語るのは、幼なじみの徹子の話だ。変わった女の子として徹子は描かれる。護が交通事故に遭うと、見舞いにきて泣きじゃくるし、道端でいきなり知らないおばあちゃんに抱きついて、死ぬほど相手を驚かすし、授業中にぼろぼろ盛大に涙をこぼし「平石さん、どうしたんですか」と先生に言われたり、すっとんきょうなことばかりするのだ。とはいっても変人とも違うと、護は考えている。普段はおとなしく、どちらかといえば生真面目な優等生だからだ。
成人式の日に赤ん坊が落ちてきて、2人が助けると、それをきっかけに仲良くなるヤンキーの両親をはじめ、個性豊かな登場人物が魅力的なこと。そして少年の日、そして青年の日が、鮮やかに描かれていくので、それだけでも読みごたえのある青春小説、と言うことができる。ところが、徹子が語り手となる「レリーフ」になると、それらがまったく違う意味をもってくるのだ。この先はいっさい書けないが、ひとつだけ許されるなら、これは運命と戦う者の物語だということだ。驚きと感動が待っていることを付記しておく。 (幻冬舎 1500円+税)