「少年と犬」馳星周著
駐車場の隅に、首輪はしているがリードのついていない犬がいた。タグに「多聞」と書いてある。ひどくやせていて、中垣和正が鶏ササミジャーキーをやるとついてきた。若年性認知症の母の介護をしている姉から電話があったので実家に帰ると、母は和正に「どちらさま?」と言った。それなのに多聞を見ると、「おまえ、もしかして、カイトかい?」と多聞をなでる。子どもの頃、飼っていた犬だと思い込んでいるらしい。
多聞を連れて散歩に行くと、まるで子どもに帰ったようにはしゃいでいる。和正は介護費用を稼ぐために、先輩から頼まれたヤバい仕事を引き受けることにした。(「男と犬」)
さまざまな飼い主の心に寄り添う犬の物語6編。
(文藝春秋 1600円+税)