「拾われた男」松尾諭著
松尾は高校の行事で見た演劇で、スタンディングオベーションを浴びる役者を見て衝撃を受けた。
「あれやりたい」
上京したら、劇団のオーディションの願書受け付けの締め切りはすぎていた。気落ちしていたとき、コーヒーの自販機の前に落ちていた封筒を拾う。航空券が入っていた。交番に届けた3日後、落とし主から電話がきた。その女性はプロダクションの社長だった。唯一受けたオーディションに落ちた著者は、女社長の「そのオーディションの結果が出たら教えてくださいね」という言葉を思い出した。女社長は警察に、拾い主がお礼を求めていると聞いて不安だったが、それでも声をかけたのは松尾がまれに見る昭和顔だったからではないか。
個性派俳優のエッセー。
(文藝春秋 1500円+税)