「無暁の鈴」西條奈加著
久斎が上野国の山間にある西菅寺に預けられてから6年が経った。久斎にとって寺は決して居心地のいい場所ではなかった。生家は、隣国下野国の武家の名家だが、庶子のため継母や兄弟から疎んじられ、7歳で寺に預けられた。しかし、寺でも兄僧らにいじめられ、唯一の楽しみは早朝の水くみで年上の娘・しのと言葉を交わすひとときだった。
そんな中、しのの父親が亡くなった。葬式のあった夜、久斎は葬式代としてしのの操を奪った住職の利恵を殴り飛ばす。
しのは崖から身を投げる。何もかも嫌になり、寺を飛び出した久斎は、世知に通じた同い年の万吉と出会う。久斎は奉公先を逃げ出したという万吉に同行して江戸に向かう。
信じるものを失い、絶望から無暁と名乗る久斎の人生を描く長編時代。
(光文社 858円)