「シニア バス旅のすすめ」加藤佳一氏
「今のシニア世代はアクティブですが、まだまだバスの旅は浸透していません。“乗らず嫌い”なところがあるような気がするので、この本で、マイカーやレンタカー、あるいは鉄道では感じられない、バス旅の魅力を伝えたいと思いました」
30年以上、バスに関する書籍・雑誌を作り続けてきた著者が、シニア世代に向けて、おすすめのバス旅を紹介する。バス旅と一言でいっても、観光地を効率よく回る周遊バスから、地元の人と触れ合う路線バスの旅、飛行機のビジネスクラスのような座席でくつろぐワンランク上の旅まで、5段階に分けて紹介されている。自分のニーズに合ったバス旅が見つかりそうだ。
「レンタカーやタクシーで旅をすると、移動中の空間には旅行者のグループしかいませんよね。でも地元の人も乗るバスを使うと、その土地の普段着の姿に出合えるんです。鉄道でもそういう面はありますが、バスにはスーパーで買った地元の野菜を持っている人がいたり、部活帰りの高校生が乗っていたり。より素顔を感じられるのがバス旅の面白さです」
横浜、金沢、伊勢・二見・鳥羽といった人気観光地を回る「周遊バス」は、車内に案内ガイダンスが流れるなどわかりやすく、初心者にも安心だろう。「一日乗車券」を使った日帰りバスの旅では、途中下車を繰り返しながら、観光スポットとローカルな雰囲気、両方を楽しめる。たとえば「天城路フリーパス」を利用した中伊豆の旅で、著者は「天城越え」や「伊豆の踊子」の舞台をめぐり、産地の生わさびと共にそばを食し、日帰り入浴で疲れを癒やした。
「伊豆にはマイカーで行く人が多いでしょうが、マイカーだと、国道や県道を走ることになります。一方、バスは集落に入っていくので、旧道とか、軒先をかすめるような狭い道にも入っていく。その意外性が面白いんです。路線バスの旅には、どうしても、ちょっとした待ち時間ができますよね。で、次のバスが来るまで30分あるから、あまり観光客が入らないような地元の喫茶店に入ってみたり。効率的でない旅の良さや、時間を浪費するぜいたくもありますね」
一方、リッチに行きたい人に著者がすすめるのが、ワンランク上の大人のバス旅だ。
「バスは安いけどつらい、というイメージを持っているシニア世代は多いのですが、実はこんなに変わっていますよ、ということを伝えたかったんです」
たとえば、わずか11席。上半身と下半身を水平に保つ「ゼログラビティシート」および完全個室で上質な眠りを提供するのが、「ドリームスリーパー東京大阪号」(関東バス)。運賃は新幹線の指定席料金を上回るが、夜間に移動できる便利さに加え、早割などでチケットを取ればもう少し安くなるという。
その他、車窓と美食を味わうレストランバスや、こだわりの詰まった京都の「舞妓バス」など、バス旅の進化に驚かされるだろう。さらにバス旅は、高齢化などで経営が苦しくなっているバス会社への応援にもつながる、と著者。
「車の免許を返納した地方のお年寄りにとって、鉄道のローカル線以上に、路線バスがなくなるのは大問題なんです。路線バスには乗らなくても、そのバス会社が運行する高速バスや周遊バスに乗ることで、地元貢献もできるはずです」
著者の旅を追体験して旅気分を味わいつつ、コロナ後の計画を立ててみてはいかがだろう。
(平凡社 1012円)
▽かとう・よしかず 1963年東京都生まれ。東京写真専門学校卒業。86年にバス専門誌「バスジャパン」を創刊。93年から「BJハンドブックシリーズ」の刊行を続け、バスに関する図書を多数監修。著書に「つばめマークのバスが行く」「ローカル路線バス終点への旅」「東京の路線バスのすべて」「都バスで行く東京散歩 最新版」など多数。