「コティングリー妖精事件」井村君江、浜野志保編著
1917年、イギリスはヨークシャー州コティングリー村に住むエルシー(16)と従妹(いとこ)のフランシス(9)は、雑誌に載っていた妖精の絵などを切り抜きヘアピンにつけキノコに刺し、近所の河原で自分たちと一緒に写真を撮った。現像をして妖精がいるのを見た父親は驚き、知り合いの神智学者エドワード・ガードナーに見せた。これは貴重な写真だと思ったガードナーは、同じ神智学協会の会員だったコナン・ドイルに写真を送り、ドイルが雑誌に公表した。当時世界的な名声を得ていたドイルのお墨付きを得て、この写真は「コティングリー妖精事件」として世に知られることになる。
その昔、初めてこの写真を見た時、妖精はいかにも作り物めいていて、合理主義の権化というべきシャーロック・ホームズの生みの親であるドイルがこんな「インチキ」を信じたことに首をかしげた。事実、写真が撮られてから70年近く経った82年、妖精と一緒に写っていた少女のひとり、エルシーが自分たちが捏造(ねつぞう)したとを打ち明けた。これで一件落着と思ったが、事はさほど単純ではないらしい。
本書の編著者の井村君江は、2001年にガードナー所有のカバンをオークションで落札、カバンはしばらく美術館の倉庫で眠っていたが、17年にはカバンの中身についての本格的な調査が始まった。本書はその調査結果を豊富な図版と共に報告したもの。
中身は「少女と妖精」の5枚の写真、その他の心霊写真・超常現象写真、ガードナーの妻アデレードの直筆書簡類。妖精写真のうち4枚はエルシーが捏造を認めたが、5枚目の繭のようなものに妖精が包まれている「妖精の日光浴」は少女たちに写した覚えがないという。本書では、解明しきれない問題も含めて、当時のイギリスにおける心霊学の隆盛やカメラの草創期の技術的な問題など、多角的にこの事件を検証している。
この事件をインチキと片付けるのは簡単だが、21世紀に入ってもいまだに関心を引き続けることの意味を考えてみたい。 <狸>
(青弓社 3080円)