「アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険」宮田珠己著、網代幸介画
イングランドの騎士ジョン・マンデヴィルが記した(とされる)「東方旅行記」は、著者がコンスタンティノープル、エルサレム、バビロンなどを経てはるか東方の異世界を訪れ、旅先での見聞を記したもの。ここには、頭のない種族、1つ目の巨人族、大きな1本足の種族など奇々怪々な怪物や、プレスター・ジョンが統治する幻のキリスト教王国への訪問も記されている。
しかし同書は実際の記録ではなく、剽窃(ひょうせつ)を含むフィクション。本書は、ジョンの息子のアーサーがプレスター・ジョンの王国探索の旅に出かけ、奇々怪々な出来事に遭遇するという物語だ。
イングランドの片田舎で趣味の園芸にいそしんでいたアーサーの元にローマ教皇から派遣されたペトルスという修道士が訪ねてきた。後ろにはもう何年も会っていない異母弟エドガーがいる。
西からはイスラム勢力の脅威にさらされ、東にはローマから分裂したアヴィニョンの教皇が立つという危機に迫られた教皇ウルバヌス6世は、起死回生の策として東方のプレスター・ジョンの王国の援助を得ることを思い立つ。ついては、かの国に実際行ったことのあるジョンの息子のアーサーとエドガーに道案内をせよというのだ。
しかし、父が書いたものは嘘八百だと知っているアーサーは断ろうとしたが、教皇の強い要請でやむなくペトルス、エドガーと共に東方への旅に出かけることに。
最初に遭遇したのは、バロメッツという先端に子羊が実るという植物。頭には角の代わりに毛が生え、放っておくとその毛が入道雲のようになってあらゆるものをのみ尽くすという。続いて訪れたのは女性ばかりの国アマゾニア。彼女らに捕らえられて妙な肉を食べたアーサーたちは、魚になって奴隷にさせられるところを辛くも逃れる。
その後も顔が犬の一族や巨大な蟻がいる国などを経て、最果ての国ヂパングにたどり着く……。
中世ヨーロッパの旅行記の記述をふんだんに盛り込みながら知的好奇心を刺激する、痛快な架空旅行譚(たん)。網代幸介の細密な絵も興趣をそそる。 <狸>
(大福書林 2750円)