「鯨の岬」河﨑秋子著
札幌に暮らす専業主婦の奈津子は、共働きの息子夫婦が帰宅するまで、小学3年の孫・蒼空の面倒を見ている。ある日、蒼空が動画を見て大笑いする。見せられた動画は打ち上げられた鯨が腐って爆発する映像だった。それのどこがおもしろいのか分からない奈津子だが、学校教師の父親の転勤で霧多布に暮らしていたときにクジラの爆発を見たことと、そのにおいまで思い出す。
数日後、釧路の施設に入っている母親に面会に行った奈津子は、釧路駅に止まっていた花咲線に思わず乗り込み、半世紀以上前に暮らした霧多布の街に降り立つ。懐かしかった当時の思い出をかみしめながら1泊した奈津子だが、自分の記憶が間違いだったことに気づく(表題作)。
発表する作品が次々と各賞を受賞する注目作家による心揺さぶる作品集。
(集英社 627円)