「テロルの原点」中島岳志著
「テロルの原点」中島岳志著
1921年9月28日、安田財閥の創始者・安田善次郎が面会を求めてきた青年に惨殺された。自らもその場で喉を切って果てた青年の名は、朝日平吾。労働運動に携わる31歳の無名の人物だった。
この事件に誘発され、約1カ月後、東京駅で時の首相・原敬が暗殺された。さらに2つの事件は、浜口雄幸狙撃事件や血盟団事件などのテロ、五・一五事件、二・二六事件などのクーデター事件の引き金となっていく。
当時の日本は、第1次大戦終結による不況が長期化し、深刻な格差社会に陥り、若い世代を中心に不遇感と鬱屈が充満していた。
100年を経て、「朝日的な感性」が再び世の中に渦巻いていることを危惧する著者が、佐賀・嬉野で生まれた青年が事件を起こすまでの軌跡を追った評伝。
(新潮社 693円)