「証し 日本のキリスト者」最相葉月著

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「証し 日本のキリスト者」最相葉月著

 日本に暮らすキリスト教(カトリック、プロテスタント、正教)の信者は人口の約1.5%、韓国の約30%に比してかなり低い。明治以降、キリスト教関係の教育機関や医療・福祉施設は身近な存在であるし、クリスマスやイースターなど文化的な親近性もある。この信者数の少なさは、キリスト教を信じることと親しむことに大きな隔たりがあることを示している。

 本書は、そうした隔たりを超えて入信したキリスト者がどのような人たちなのか、その信仰はどのようなものなのか聞き取った証言集だ。取材地は、北海道から沖縄、五島、奄美、そして小笠原諸島の父島までの広範囲に及び、年齢も戦争経験者から30代までと幅広く、在日コリアン、日系ブラジル人の教会の人たちを含めて120人ほどのキリスト者の声を聞き取っている。

 全14章。自らの罪と向き合う中で神と出会い回心を遂げた人々(1章)、代々キリスト者の家に育った人々(3章)、神父や牧師、修道院のシスターなど神の使徒として働く人々(4章)、教会内の女性やセクシュアルマイノリティーに対する差別を受けた人々(8章)、人に傷つけられ、尊厳を奪われる経験をした人々(12章)、ある日突然神に倣って生きることを決意した人々(14章)など。終章には、コロナの感染拡大とロシアのウクライナ侵攻を受け、コロナ禍の教会の様子とロシア正教会への追加取材が収められている。

 内容は多岐にわたるが、著者が度々求めたのは、自然災害や戦争などの不条理に面してなお、信仰は揺るぎないものであったのか、神を信じられないと思ったことはないか、それでもなお信じることはどういうことなのか、という質問だ。

 無論、回答は人さまざまだが、そこには21世紀初頭の日本のキリスト者の実相が映し出されているだけでなく、現代日本の社会が抱えている問題が浮き彫りにもされている。 <狸>

(KADOKAWA 3498円)

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