「春画の穴」春画ール著
「春画の穴」春画ール著
春画に描かれている明治期の従軍看護婦は鮮やかな緋色の腰巻きを身につけているが、当時、日赤では「ドロワーズ」という洋式の下着を導入していた。絵師が知らなかったことも一因だろうが、春画には花びらが広がるように描かれた赤い腰巻きの流線美が欠かせなかったからだろう。
緋色の腰巻きは若さと女性性を表す記号でもあった。山口県の周防地方では、赤い腰巻きは12歳から40歳前後の女性が身につけた。子どもが産めることを示唆する役割もあったのではないか。
また、「処女」は単に「家に処(い)る未婚の女」の意味で、「処女にして出産」というのはあり得ることだった。「性交渉未経験」という明治期の価値観が広がったことで現在のような意味になったのだ。
春画の裏にある価値観にも迫る、興味深い一冊。
(新潮社 1980円)