「南西諸島1200km」加藤久豊・神谷隆史著
「南西諸島1200km」加藤久豊・神谷隆史著
南西諸島は、九州南端から台湾の北東までの海域に198の島々が連なり、その長さは実に本州とほぼ同じ1200キロに及ぶ。
本書は、広大な海原に点在する島の一つ一つに通い、その知られざる自然を撮影したネーチャーフォト作品集。
ページを開いてまず目に飛び込んでくるのが、分厚い雲の隙間を縫って降り注ぐ陽光によって輝く海にぽっかりと浮かんでいるかのような渡嘉敷島沖の小島。
エメラルドグリーンの海の底にはサンゴ礁が見え隠れし、島は白浜に縁どられ、もしも漂流することがあったなら、こんな無人島にたどり着きたいものだと思わせる。
また夏の夕刻、夕日に染まる入道雲の下、西表島の沖合に浮かぶ小島には、島をねぐらにする鳥たちが一斉に帰還してくる。
そして夜、諏訪之瀬島の断崖から見上げた空には、まるで宇宙空間に放り出されたかのような錯覚さえ抱く満天の星の中を、天の川がゆっくりと「流れて」いく。
ほかにも、海辺にそびえる岩山とサンゴ礁がつくり出したラグーン(海の湖)が朝焼けに染まる伊是名島の朝や、西表島の汽水域に広がる鬱蒼としたマングローブの原生林、硫黄島の火山性ガスが燃え火炎を噴きだす風景など、どの写真にも人の営為はまったく感じられず、太古の世界の地球はこういう世界だったのではないかと思わせる風景が並ぶ。
太平洋戦争時の激戦で1500人もの住民が犠牲になった伊江島の、かつて人々が避難した海の近くの洞窟も、今ではそんなことがあったとは信じられないほど、静寂の中でただ穏やかな海を「見ている」。
どの写真にも、人間は気配さえ写り込んでいないが、豊かな自然の中ゆえに生き物たちは旺盛に活動している。
古代の森の中に現れたヤクシカ(屋久島)や、ピンクと紫のグラデーションに染まった朝焼けの空を背景にシルエットになった野生の日本在来馬「ヨナグニウマ」(与那国島)などの大型動物から、リュウキュウアカショービン(宝島)やヤンバルクイナ(沖縄本島やんばる)などの希少な鳥とかの動物をはじめ、巨大な幹に深くえぐられた洞が夕日によって赤く染まる屋久杉(屋久島)や、精霊が宿る幸福の木と信じられているガジュマル(徳之島)、樹齢200年の神木アカギ(多良間島)、トカラ列島の固有種「トカラアジサイ」(口之島)などの植物まで、カメラは固有の動植物にも向けられる。
収録されているだけで、著者らが撮影に訪れた島は30島に及ぶ。
途方もない時間と労力をかけて撮影された作品群が南西諸島の自然の知られざる美しさと雄大さを余すところなく伝える。
(日本写真企画 2750円)