iPS細胞は重症心不全患者にとって大きな“救い”になる
私はiPS細胞の原点は手塚治虫さんの漫画「ブラック・ジャック」にあるのではないかと考えています。作中、主人公ブラック・ジャックの助手を務めるピノコという小さな女の子が登場します。このピノコは、実はある女性患者の体にできた奇形腫の中にバラバラになって収まっていた脳、内臓、手足などを摘出し、ブラック・ジャックが人型に組み立てた女の子です。
もちろん、フィクションならではの設定ですが、髪の毛や歯といったものが体内に残って腫瘍化するケースは実際に起こります。ブラック・ジャックは「いったん腫瘍になってしまったものを元の正常な臓器に戻せないか」という発想でピノコを誕生させました。そうした発想の逆に当たるのがiPS細胞です。つまり、細胞を初期化することによりそこから人間の操作でさまざまな臓器をつくっていくという発想です。ちなみに、手塚治虫さんは大阪大医学部の出身で、澤教授は後輩に当たります。
今回の臨床研究では、iPS細胞を使った心筋シートを3人の患者に移植する予定になっています。これが成功して安全性や有効性が確認されれば、重症心不全患者の新たな治療法として広まるのは間違いありません。さらに、心臓という危険性の高い臓器でうまくいったとなれば、他の臓器でもiPS細胞による再生医療が行われる契機になるでしょう。そうした観点からも、今後もこの臨床研究から目が離せません。