対症療法だけだった難病が遺伝子治療薬で治療できるように
これまで、遺伝子治療薬の基本的な仕組みや開発の背景についてお話ししてきました。今回からは実際に医療現場で使われている遺伝子治療薬を紹介していきます。
一口に遺伝子治療薬といっても、いくつかの種類に分かれていて、「すべてがまったく違う薬」という認識でよいといえます。「胃薬」や「鎮痛薬」といったように、「遺伝子治療薬」を同種同効薬としてひとくくりにするのは難しいということです。
そんな遺伝子治療薬の中から、まずは「脊髄性筋萎縮症」(SMA)に対する2種類の遺伝子治療薬を取り上げます。「スピンラザ」(一般名:ヌシネルセン)と「ゾルゲンスマ」という薬です。この2種類はどちらもSMAの遺伝子治療薬ですが、その作用機序は大きく異なります。それぞれの薬の説明に入る前に、治療対象となるSMAと遺伝子の関わりについて説明します。
SMAは脊髄及び脳幹内の運動神経の変性によって引き起こされる神経筋疾患で、SMN1遺伝子の異常が明らかな原因となる遺伝性疾患です。SMN1遺伝子の異常(変異や欠損)によって、正常に機能するSMNタンパク質が作られなくなり、量が足りなくなることによって、神経や筋肉が正常に発達できなくなったり機能できなくなってしまいます。小児で発症し、歩行困難をきたしたり、横隔膜の筋力低下によって呼吸ができなくなり死に至ります。