「サル痘」が世界に感染拡大! ラクダ痘・天然痘の関係は…医療情報学教授が解説
「種痘」廃止の影響か
ラクダ痘は中東を中心に、ラクダがよくかかる病気として知られている。中東では、実に4000万頭のラクダが飼われている。しかしラクダ飼いたちをいくら検査しても、陽性反応が出てこない。そのためラクダ痘は人には感染しないと言われてきた。ところが2011年、インドでラクダ痘感染者が3人確認された。症状は軽く、手や指に水疱やかさぶたができた程度だが、ともかくもラクダ痘が人にも感染することが確認されたのである。
01年の9.11テロの後、当時のブッシュ政権が大慌てで「希望する国民全員に種痘を行う」と宣言した背景には、ラクダ痘に対する懸念もあったから、といわれている。というのも、以前からイラクでラクダ痘の研究が行われていたからである。もちろんイラクでもラクダは大事な家畜だから、その病気を研究するのは当たり前。だがテロ直後のアメリカには、そんな冷静な判断をする余裕すらなかったのかもしれない。
しかし確かにラクダ痘ウイルスは、うまく改良できればバイオテロにうってつけだろう。もともと天然痘ウイルスとよく似ているのだから、人への感染力を高め、毒性を上げるのは、さほど難しくないのではないか。
天然痘は感染力が強く、致死率が20~50%にも達する、人類史上最悪の感染症のひとつだった。幸いにして、世界中で種痘が実施された結果、1970年代までに根絶したが、そのため現在40代以下の人たちは種痘を受けていない。感染力と致死率を高めた改良型ラクダ痘ウイルスがまかれたら、世界が大混乱に陥ること必至である。
もちろん空想に過ぎない。ただ今回のサル痘騒動も、実は種痘が廃止されたことが影響しているらしい。アフリカ現地での研究によれば、サル痘の重症者の平均年齢は、1980年代には4~5歳だったのが、2000年代には10歳に上がり、10年以降は20歳に達しているという。つまり、種痘を受けていない世代の年齢が上がった結果、サル痘患者の平均年齢も上がってきているのである。日本も他人事ではない。いま46歳以下の人の大半は、種痘を受けていないから、サル痘への抵抗力を持っていない。うまく水際で防ぐことが肝要だろう。