入浴は危険だったが…やりたいことを最後までできて良かった
「奥さんはどちらに?」(私)
「銭湯に行ってるよ」(患者)
「体重はいかがですか?」(私)
「元気な時は80キロあったけどもう70キロないよ。もう悪いところしかなくて! 新聞も読めないし、テレビもボーッと眺めているだけ。片方しか白内障の手術してないから。両方やっとけばよかったよ!」(患者)
「目薬はさしてますか?」(私)
「さしてる」(患者)
「眼科にかかりたいとかあります?」(私)
「いやもういいかな。タクシー代もかかるし」(患者)
積極的な医療介入は希望されず、夫婦で気ままに過ごすことを望まれていたのでしょう。
しかし転倒による救急搬送が増えた頃、恐れていたことが起こりました。
入浴中、意識を失ってしまったのです。なかなか風呂場から出てこないことを心配した奥さんがのぞいたところ、顔半分が浴槽に漬かった状態。奥さんが浴槽から引き上げ、救急要請。救急隊が駆け付けた時にはすでに心肺停止で、心電図の波形はフラットを示し、心臓マッサージするも意識は戻りませんでした。