ステージ3「結腸がん」70代患者はなぜ抗がん剤を受けられなかったのか?
診断はステージ3の「結腸がん」だった。
「心筋梗塞に懲りて健康には人一倍気を使っていたので、死刑宣告を受けたようなショックで、女房にも八つ当たりしました。ただ、戦時中に沖縄で戦った日本兵を描いた本に書かれていた『男なら死ぬ覚悟を持て』という言葉に感動し、私も開き直りましたよ」
「結腸がん」の手術は、約4時間に及び、大腸局部を十数センチ切除。人工肛門を作ることなく2週間入院した。
手術後、矢野さんの体調は順調に回復したものの、リンパ節にも転移していた。当然、手術後に抗がん剤治療を受けるつもりだったが、担当医から「標準治療に使われる抗がん剤は使えません。矢野さんの心臓は6割程度しか機能しておらず、治療で命を縮める危険があります」と説明を受けた。
■心毒性や腎毒性を忘れてはいけない
日々がん患者の治療に向き合う「東京府中ときクリニック」(東京・府中市)の土岐敦院長が言う。
「一般的にがん治療はガイドラインに準じて行い、合併症がある患者には手術後に補助化学療法が勧められます。使用する抗がん剤は、殺細胞性抗がん剤を投与するのが一般的ですが、心臓や腎臓などに重篤な副作用を起こすことがあります。その意味では、矢野さんの主治医は患者さんに寄り添った治療をなさっておられると思います。ただ、抗がん剤投与は、主治医の見解の他に、施設のバックアップ体制に左右されることがあります。積極的な治療を強く望む場合は、他の医師や施設の見解を求めてセカンドオピニオンを受ける手もあります。その場合、保険適用でも可能な別の治療方法を提示されることがあります」