なすなかにし那須晃行は42歳で緊急手術、「若年性脳梗塞」は一時的症状の見極めが生死を分ける
生活習慣病などで血管がダメージを受けると、その影響は脳や心臓に及ぶ。どちらで発症しても大変な病気だが、その多くは60代以上。このほど脳梗塞の治療から仕事復帰したお笑いコンビ・なすなかにしの那須晃行が緊急手術を受けたのは昨年12月12日、43歳の誕生日を迎える2日前だ。この病気のイメージよりずいぶん若い。実は若年発症も侮れないという。
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4カ月の治療を終えてテレビ出演した那須は話を振られると、右手で口元を押さえて涙をこらえていた。感極まった様子から、突然の大病を克服するまでの道のりを思い出し、気持ちがあふれ出したのかもしれない。
那須は、高血圧の持病があり、降圧剤の服用を公言。発症した日は、仕事が休みで外出中に体調を崩し、搬送先の病院で緊急のカテーテル手術を受けたという。東京都健康長寿医療センターの元副院長・桑島巌氏がこう言う。
「脳梗塞は、血栓で脳の血管が詰まることでそこから先の脳細胞が壊死する病気で、断絶した血流をいかに早く再開通させるかがカギ。カテーテル手術を受けたという報道から、那須さんは脚のつけ根からカテーテルを挿入して患部に到達させ血栓を回収する治療を受けたと思われます」
脳梗塞発症から4時間半以内だと、薬で血栓を溶かすt-PA療法が受けられる。そのための検査に1時間ほど必要で、病院到着は発症から3時間半以内。この時間的制約に加え、「脳梗塞の範囲が広い」「血圧がかなり高い」「血液検査に異常がある」「手術後2週間以内」などのケースは脳出血を起こすリスクが高く、t-PAがタブーとなっている。
そこで、t-PAの適応で発症8時間以内の場合に行われるのが、血栓を直接回収するカテーテル手術だ。最近は、t-PAが可能な人にカテーテルによる血栓回収を組み合わせる治療も行われている。「血栓を溶かしながら、その残骸を回収するので、2つを組み合わせる方がより治療効果が高い」と桑島氏。
那須が受けたカテーテル手術が、発症後4時間半以内で2つを組み合わせたのか、発症8時間以内でカテーテル単独なのか不明だが、高血圧の持病を加味すると、単独なのかもしれない。
最新版の「患者調査」(2020年)によると、脳梗塞の患者数は約120万人に上る。脳出血とくも膜下出血を含む脳卒中全体のうち8割で、脳卒中の中でも脳梗塞が突出する。
その発症年齢は男性の場合、70代がピークで65歳以上が9割だ。そう考えると、42歳で発症した那須はかなり若い。
おおむね40代以下の脳梗塞は若年性という。若年性ならではの注意点はあるのか。桑島氏に聞いた。
■しびれやマヒ、めまいなどが10分ほどで消失
一般に高齢での発症は高血圧や糖尿病、脂質異常症など生活習慣病が進行する過程で、脳の血管がじわじわと詰まっていく。たとえるなら、下水管に少しずつたまったヘドロが膨大になり、いよいよ下水の流れを塞いだ状態だ。若年性ではそこまでいっていないという。
「脳梗塞の前段として一過性脳虚血発作(TIA)があります。一過性というように、脳梗塞の症状である片側の手足のしびれやマヒ、ろれつが回らない、めまいなどの症状があっても、早ければ10分ほどで消失。その発症年齢のピークは脳梗塞より若い60代後半で、50歳前後も珍しくありません。TIAを起こすと、15%程度は3カ月以内に本格的な脳梗塞を、そのうち半数は2日以内に発症するといわれていて、若年性脳梗塞の方はTIAを無視しているか、あるいは軽く考えている可能性が高いです」
前述の下水管にたとえれば、ヘドロの蓄積はそれほどでなくても、何かの拍子に大きなゴミが流れてくればヘドロに引っかかって水流を妨げる恐れはある。それが再び水圧で押し流されるのが、TIAのイメージだ。