「住みやすい街選びガイド」が明かす"マンションの暗い未来"…資金不足で大規模修繕ができない(田中和彦)
修繕積立予算と予定工事金額の溝が埋まらない時のベストな解決策は?
今後は、修繕業者の相見積もりを取り、値下げ交渉をしても、修繕積立予算と予定工事金額の溝が埋まらないケースが増えていくものと思われる。では、そのような状況に直面した時、具体的には、どのようにクリアするのが最も賢明なのだろうか。解決策としていくつかの選択肢があるが、一般的に行われている方法と、その課題について列挙する。
①一時金(足りない全額)を徴収する
「足りないならお金を集めればいい」のだが、これがすんなりとできるなら一番良い。しかし、一時金の徴収は現実的とは言い難い。
仮に住民の総会で、一時金徴収の決議が通ったとしても、全住戸から遅滞なく徴収するのはかなり困難だからだ。なぜなら、通常の管理費や修繕積立金ですら滞納する住戸が存在するマンションは多く、国土交通省の調べでは約3割のマンションで一部住戸が管理費・修繕積立金を3カ月以上滞納しているケースがあるという。
しかもその割合は築年数が古いマンションほど高くなる。月々の支払いでさえ徴収ができていない中、一時金となるとさらに回収のハードルは上がることは言うまでもない。
②借り入れを起こす
銀行から借り入れを起こすという方法も一般的だ。現実的に、足りない工事費を借り入れで補填するマンションは多い。それは、区分所有者の負担が一時金よりも少なくなるからだ。しかし安易に借り入れで賄うのも得策とは言い難い。
「目の前の負担が少なくなってもそれは単に先送りにしているだけ。金利の分、むしろ負担は増えます。しかも、『借金をしているマンション』ということで資産価値の毀損につながります。中古マンションを購入の際に修繕積立金を確認するのは基本中の基本です。その時に積立金額が少ないどころか借金をしているマンションを見てどう感じるでしょうか。もちろん借り入れをすることが絶対にいけないことではありません。うまく借り入れを利用しているマンションもあります。ここで言いたいのは、さしたる考えもなく『足りないから借りる』はやめた方が良いということです」
③工事内容を見直す
想定していた工事内容を見直し、不要不急な工事がないか、グレードを落とすことができないか等々を精査していくことで工事金額が下がらないかを検討する方法もある。もし、新築時に策定された長期修繕計画に記載された工事内容のまま見積もりを取得しているのであれば、新築時は交換を予定していた設備がまだ利用できるため交換せずに済んだ、といったこともある。
④工事着手を延期する
お金がないなら今は工事をしない、というのも解決方法の一つだ。ポイントは、何をいつまで延期するのか。しかし、今このタイミングで修繕等をしておけば簡単な工事で安く済んだのに、先延ばしにしたために劣化が進行し、余分な費用がかかるようであれば延期する意味がない。そうならないためには、項目ごとに精査する必要がある。
⑤節約する
修繕積立金は大規模修繕工事のみに使われるわけではなく、それ以外の修繕にも使われる。大規模修繕工事以外の工事に節約できる箇所がないかを精査することによって節約が可能になるのだ。また、管理費の余剰金を修繕積立金に振り替えることも可能なので、共用部の電気代や日常清掃にかかる費用などのランニングコストの軽減を考えることも有効である。
区分所有者の悩みは尽きないだろうが、大まかに言って、打てる対策は以上4つくらいしかない。今回の記事は、大規模修繕工事に理事等の立場で携わったことのある方にとっては、言わずもがなの内容かもしれない。しかし多くのマンション居住者にとって大規模修繕工事は、誰かがやってくれてその報告を受けるだけのイベントとなっているのが実情だ。何も問題がなく実施されればそれでいいのかもしれないが、今後は積立金増額等金銭的な負担が発生するマンションが増えることが予想される。
大規模修繕問題は全ての分譲マンション住民にとって他人事ではないということをくれぐれもお忘れずに。(了)
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