元球団幹部に聞く 720億円損失の実態と年俸削減の重大事案
1000万円以上は一律カット
球団の大幅な収入減は、選手や首脳陣、裏方、フロントまで含めた年俸問題に直結する。実際、オーナー会議でも話題になった。前出の野崎氏は阪神時代、NPBの選手関係委員長として、労使問題に関わった経験がある。
「統一契約書には、今回のような不慮の事態における年俸の取り扱いに関する条文はないと記憶しています。今季はすでに契約を締結しており、年間の収入を保障する形になっているはずです。ただ、球団経営が非常に大きな打撃を受ける中、今季の年俸を減額したいと考える球団もあるでしょう。仮に今季の試合数が4分の3になれば、年俸の4分の1を減額するなり、何らかの形で手を付けざるを得ない。たとえば年俸1000万円を基準に、それ以下の選手は全額保障する一方、それ以上の選手については年俸額に応じて一定の割合を減額する。これは球団都合の話ですから、選手会と話をする必要があります。選手たちには気の毒ですが、プロ野球という同じ船に乗っているのですから、私なら選手に理解を求めます」
さらに、オリックスの元球団代表である井箟重慶氏(関西国際大名誉教授)は、「今季の球団の収入はゼロとして考えないといけない」とこう続ける。
「試合数減に応じて、年俸の一律カットも検討をせざるを得ない事態。経費削減もさまざまな形で出てくるでしょう。私はオリックス時代、遠征の際の裏方の帯同人数を2人減らしたことがある。それだけで宿泊費、交通費などを合わせ、1人当たり5万~10万円ほどカットできます」
■査定は143試合開催が前提
選手の契約問題については、こう解説する。
「プロ野球の契約とは何が前提になっているのかという問題がありますが、プロ野球は記録をベースにして、いろいろなことが決まっていく。球団の立場とすれば、選手契約は大部分を記録に基づいて決めています。4番打者に億単位の高給を支払うのは、3割、30本塁打、100打点を挙げることを見込んでいるから。その年俸はあくまで、年間143試合の公式戦と2~3月のオープン戦を予定通りに行うことが前提。たとえ、年間120試合で打率4割を打ったとしても、基準の試合数を満たしていないので、同じような評価はできない。ただ、選手はその分を査定に加えてほしいと思うでしょう。どちらの言い分も正しく、選手会との調整は簡単にはいかない。非常に難しい問題です」
井箟氏はさらにこうも言う。
「今季を公式戦扱いをせず、オープン戦のような参考試合にするのはどうか。選手との契約交渉の際に『今年は公式戦ではないから、ここらへんで妥協しないか』という話がしやすい。12球団の中にも、そうした考えを持っている人がいても不思議ではありません」
たとえ開幕にこぎ着けることができたとしても公式戦縮小によるカネの問題は相当に根が深い。