新谷仁美直撃<1>「国民が反対なら五輪は不要」発言の真意
衝撃の無観客
――無観客での大会はかなりショックだったと。
「五輪を運動会やお祭りに例える人がいます。まさにそうです。運動会やお祭りはすごく楽しいものですよね、イメージ的にも。なのに健康を害してまで、そして、これだけ(開催に)反対意見がある中で五輪をやるというのは、私たち選手にとっては心苦しいものがある。選手だけで開催できる大会ではないということを考えたとき、私個人としてはやるべきではないのかなと。これまでは記録会でさえ、見にきてくださる方がいた。先月の大会は無観客で、記者の人も距離をとり、人数も限られていたはずです。その中でスポーツをやるというのは、私たち自身の価値も下げてしまう。やっぱり見せることが仕事なので、見せる魅力がなくなってしまうのはつらいです」
――五輪まっしぐらのアスリートが多い中、近視眼的ではないですね。
「私は1回現役を引退(2014年1月)して、初めて社会に出ました。その時、スポーツをよく思っていない方々がいらっしゃったんです。それまでスポーツ選手って、どこかで特別な感じなのかなと思っていました。でも、いろいろな人たちの声を聞いてみたとき、スポーツがあまりよく思われていない印象を持ちました。悲しいなという思いはもちろんありましたが、私たちは特別な才能を持っているわけではなく、得意分野を生かして仕事ができているということがわかったのです。それに対して応援や支援してくださる人がいるからこそ生かされている仕事なんだと。五輪は、ただ走りたいではなく、応援や支援してくださる人がいて、初めて開催できるところにつながっていく。我々選手だけがやりたいというだけでは通用しないと思います」
――選手もコロナ禍の現実を見なさいと。
「選手が夢や目標を持つことはいいことですが、それ以上に現実をよく見るべきです。私たちは夢を与える側なので、自分だけ夢を持っていればいいというわけにはいきません。陸上選手が社会人になり、人に夢を与える立場になれば、自分自身が現実をしっかり見つめ、今どこに立っているのかを見極めるべきです。このご時世、社会がどのように回っているのかというところもしっかり考え、私たちは発信していかなければなりません。単純に五輪に出たい、五輪の舞台で走りたいっていうだけでは、ただのわがままです。今はコロナで全世界の人が苦しんでいる。日本はそれに加え猛暑です。そのような点を私たち選手がどう改善していくのか、発信していかなければいけないと感じています」 =つづく
(聞き手=塙雄一/日刊ゲンダイ)
(※)「ホクレン・ディスタンスチャレンジ」…開催都市(北海道・士別、深川、網走、北見、千歳)の観光促進、地域振興につながるイベントとして毎年7月に行われている中長距離シリーズ5大会。主催は北海道陸上競技協会。
▽にいや・ひとみ 1988年2月26日、岡山県出身。興譲館高では3年連続全国駅伝出場。3年連続1区の区間賞獲得。2005年全国優勝。同年全国都道府県対抗女子駅伝1区区間賞、インターハイ3000メートル優勝、世界ユース3000メートル銅。07年東京マラソン優勝。12年ロンドン五輪5000メートル、1万メートル代表。11年世界陸上テグ大会5000メートル13位、13年モスクワ大会1万メートル5位、19年ドーハ大会1万メートル11位。右足故障悪化で14年1月引退、18年現役復帰。19年全国都道府県対抗女子駅伝の東京アンカー(9区)として7人抜きで区間賞。20年同大会も9区同賞。1月米ヒューストンのハーフマラソンで1時間6分38秒の日本新記録樹立。東京五輪5000メートル、1万メートル参加標準記録突破。積水化学所属。166センチ、43キロ。