いよいよ開幕! 北京五輪“メダル候補”5選手の「勝負の分かれ目」を専門家が徹底分析

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羽生結弦(フィギュアスケート男子)

 今季初戦の北京五輪代表選考会を兼ねた先の全日本選手権(さいたまスーパーアリーナ)では圧倒的な強さを見せて復活優勝。悲願の大技クワッドアクセル(4回転半ジャンプ)は両足着氷となり、回転不足と判定されたものの、懸念された右足首捻挫の影響は微塵も感じさせなかった。「今季世界最高」の322.36点をマークして3連覇がかかる北京五輪代表に内定した。

 羽生は「4回転半をしっかりと成功させて、その上で優勝を目指して頑張っていきたい」と話したが、本番まで残り約1カ月。練習も含めて一度も成功していない大技に挑むのはリスクがあるのではないか。

 羽生の復帰戦を現地で取材したフリーランス記者の辛仁夏氏は「羽生選手は、最後まで4回転半の成功を目指しながら、本番では勝負も諦めずに取りにいく戦いをしていくはずです」とこう続ける。

■94年ぶりの3連覇より4回転半を

「本人はとにかく大技にこだわっていますが、全日本のデキを見る限り、正味1カ月で成功するレベルに達するかどうかは未知数です。五輪の大舞台で4回転半を跳んで世界中を驚かせたい気持ちは強いでしょう。94年ぶりの3連覇を狙うのであれば、まだ完成できていないジャンプを跳ぶリスクを回避して確実に得点を稼いだ方が、より勝機を見いだせると思います。それでも、やはり、3連覇を視野に入れつつも、フリーの冒頭に4回転半を組み込んだ演技構成で臨む覚悟があるなら、順位や結果は気にしなくてもいいでしょう」

 一方、全日本選手権2位の宇野も表彰台を狙える位置に付けている。

「これまでと異なり、今季は勝利へのこだわりを公言するなど、一皮むけたような印象を受けました。優勝したNHK杯、全日本では相次いで自己最高得点を更新し、滑りは安定しています。20年から師事するステファン・ランビエール・コーチの指導もあり、五輪イヤーにしっかりと照準を合わせてきました」(辛氏)

高梨沙羅(ノルディック女子ジャンプ)

「今季ワールドカップ(W杯)は、オーストリアのクラマー(20)が7戦5勝。平昌五輪銅の高梨はベスト10を外してはいないものの4位が最高。それでも金の可能性はないとはいえません」

 こう言うのは、スキージャンプ取材歴約30年の岩瀬孝文氏(国際スキージャーナリスト)だ。

 2021年のサマーグランプリ(欧州)は優勝にベスト3が3度。10月の国内戦は3連勝。絶好調でW杯に入った。

■初のジャンプ台ならチャンスあり

「ジャンプ台のアプローチレールは夏はセラミックス製で冬は人工氷層。各国の異なる雪質も滑りに影響する。徐々に調子を上げてきたし、第6戦ではヒルサイズと同じ140メートルの大ジャンプもあった。課題の着地は身長(152センチ)が低いので、審判からテレマーク(両手を左右に広げ、片方の膝を深く曲げ、両足を前後に広げる着地姿勢)がわかりづらいという不利はあるが、混戦の中、下からのよい向かい風をとらえれば金のチャンスはある。コロナ禍でテスト大会がなかったので北京五輪のジャンプ台は初めて飛ぶ。W杯通算60勝の経験が生きる」(岩瀬氏)

 男子の小林陵侑(25)は今季9戦までに3勝。ダントツの金メダル候補。第3戦の優勝直後にコロナに感染、2戦欠場しフィンランドで隔離生活を送るアクシデントがあった。

「当時は精神的に不安定だったようです。同国で合宿中の葛西(紀明)監督が毎日リモートでフォローしていたことが、その後の好成績につながっている。メンタルトレーニングのおかげで2本とも安定したジャンプが飛べるようになり、今は欠点が見当たらない。年末年始のジャンプ週間が終われば五輪まで1カ月。しっかりピークに持っていくでしょう」(岩瀬氏)

高木美帆・小平奈緒(スピードスケート女子)

 2018年の平昌五輪でメダルラッシュに沸いたスピードスケート女子。今季W杯で絶好調の高木美帆、小平奈緒の2人は、北京での表彰台が期待されている。中でも注目は、21年12月のW杯カルガリー大会で500メートルに今季初めてエントリーした高木美。北京での出場は明言していないが、同年10月の全日本距離別選手権では優勝した小平(37秒58)に0.07秒の僅差で2位だった。

 高木美はすでに北京五輪代表入りが確実な1000メートル、1500メートルに加え、3000メートルと平昌で金メダルを獲得した団体パシュートも世界トップクラス。オールラウンダーとして表彰台独占の可能性もある。

■強みは完成度と経験値

 日刊ゲンダイでコラム連載中の長野五輪500メートル銅メダリスト岡崎朋美氏はこう分析する。

「平昌の1500メートルで銀、1000メートルで銅を取った美帆選手はあれからの4年間でさらに体の完成度が増してきています。複数種目で表彰台を狙えますが、種目を限定した方が金メダルの確率が高まる。距離が変わるとスケーティング技術もペース配分も異なるため、筋肉構成も各種目で分散されます。五輪は基本2日連続で試合に出ることはありませんが、北京は500メートルとパシュート準々決勝が連戦になる。連日になると疲労が取り切れないこともあり、一点集中の選手が有利になる。しかし、美帆選手は高い身体能力の持ち主でメンタルも強いので、不可能を可能にできるかもしれない。そこも楽しみのひとつです」

 一方、500メートルで五輪連覇を目指す小平には課題も見えてきている。

「スタートからの100メートルを誰よりも速く通過することが金メダル獲得の条件になる。最近のレースを見ていると、最初の100メートルの伸びが今までより苦しそう。瞬発力を再び取り戻すことが課題になる。とはいえ、経験値の高さが彼女の強み。抜群の集中力を発揮できれば頂点を狙えるでしょう」(岡崎氏)

 北京では日本勢同士の熾烈なメダル争いが繰り広げられるかもしれない。

平野步夢(スノーボード男子ハーフパイプ)

 三度目の正直となるか。

 平野は2014年ソチオリンピックに当時15歳で出場し、銀メダルを獲得。日本人史上最年少の冬季五輪メダリストになり、続く18年平昌五輪でも銀を持ち帰った。

 さらに世間を驚かせたのは“二刀流”への挑戦だ。同年の暮れに20年東京五輪スケートボード日本代表入りを目標に掲げ、その3年後、自国開催の大舞台に立った(14位)。

 コロナ禍により東京五輪が1年延期され、北京五輪までのインターバルはたったの半年余りしかないが、「ブランクを感じさせません。むしろスケートボードの経験が生きて、さらにレベルアップしているようです」と、02年ソルトレークシティー五輪女子ハーフパイプ日本代表の橋本通代氏がこう続ける。

■スケボーとの“二刀流”がさらにレベルアップ

「足が固定されているスノーボードと違い、スケートボードはボードの真上に乗って常に重心を捉えていないといけません。平野選手はバランスの取り方がすごく巧みで、『ボトム落ち』といって衝撃を受けるような着地でも、コンパクトに体をまとめて、バランスを崩さずに耐えられる。ボードと体をひとつにして次の壁に向かえるのが強みです。また、北京五輪では『トリプルコーク(縦3回転、横4回転)』の成否が鍵となりますが、その完成度や技を繰り出すメンタルの強さが群を抜いている。金メダルも十分狙える位置にいるでしょう」

 オリンピアンが舌を巻くほどの連続美技に注目だ。

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