日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?
「昔は努力さえすれば新弟子は確保できた。でも今は…」
大相撲がこの先、発展するには何よりも力士の育成、新弟子の確保が必要だ。協会はどのような対策で臨んでいるのか。
──強い力士を育てるには、何が必要ですか。
「弟子のスカウトにしろ稽古指導にしろ、何よりも親方衆の仕事が一番大事です。相撲協会の維持も発展も、すべては親方衆次第です。もちろん、今の親方衆は頑張っていますよ。本場所の売店などでお客さんに丁寧かつ面白く対応している姿もお馴染みです。でも、親方の一番の仕事は強い力士を育てること。それにはまず、いかに新弟子を入門させるかが大事です」
──新弟子の数も年々減少しています。
「昔は努力さえすれば、なんとか新弟子は確保できたんです。私はこれまで30年の親方生活で、およそ110人の弟子を預かりました。1場所で9人入門させたこともある。何年も前から将来性のある子の元に足しげく通い、『角界入りする時はお願いします』と顔を出し続けなければいけない。そうやってまいた種が何年も後に芽を出すのが、新弟子スカウトの仕事なんです。しかし、今の時代、我々の頃のやり方だけではうまくいきません。私はスカウトのために柔道の大会にも顔を出すのですが、そちらも10年前に比べて参加者が3分の1になっていることもあるんです」
■若手親方から意見集約
──少子化の影響ですね。
「我々の世代の親方はもう部屋を何年も運営できない。でも、若い親方は違います。今、相撲協会ではいかにして新弟子が入門しやすい環境をつくっていくか、若手親方にさまざまな意見を聞いているところです。まだまだ始まったばかりなので詳細はお話しできませんが、部屋持ち親方、部屋付き親方で意見も違うし、これまでにない案も出ている。今後は若い親方たちを集めて話し合いなどを行う計画もあります」
──その上、力士としての教育もしていかなければいけない。
「これはいつも話していることですが、昔ならいざ知らず、今の子供たちにまわしをつけさせて、しきたりから何から指導していくのは並大抵のことではありません。新弟子に『なんでこんな厳しいことをしなきゃいけないんだ』と思われても仕方ないでしょう。コロナ禍での外出禁止にしても、本当にみんなよく我慢してくれました。それもこれも、師匠がピシッとしているから、力士たちも決まりを守ってくれたのだと思う」
──元大関朝乃山のように例外もありましたが……。
「朝乃山について私が言えるのはひとつだけ。迷惑をかけた人、支えてくれた人へのお詫びは大関復帰ではなく、横綱昇進だよ、と。横綱になって初めてみそぎを済ませたと言えるんだよ、ということです」
(聞き手=阿川大/日刊ゲンダイ)