「降格の規則ができていたら楽に取れた」双葉山が明かした“背水の重圧”
「特権」どころか重荷
12日に始まった春場所は、またも横綱不在で初日を迎えた。照ノ富士の休場は4場所連続、全休は3場所連続となる。大けがと病気からの奇跡的な復活、横綱昇進、白鵬(現宮城野親方)引退後の土俵を支えた奮闘がまだ「貯金」になっていても、いつまでも許されないことは誰よりも本人が分かっている。
序二段まで落ちる地獄を見たから、照国のように降格を「ありがたい」とは言うまいが、規則上は何場所休もうと降格のない制度が、「特権」どころか重荷でもあるはず。
まずは十分な稽古ができるようにならないと自信が戻らない。出場しても10勝ぐらいでは、マスコミが「復活」と呼んだところで本人はそんな気になれない。
2007年からサッカー騒動や連続休場で進退を取り沙汰された朝青龍が、09年初場所で再起を期した。場所前の不調を押しての出場で5場所ぶりの優勝を果たし、「心の貯金ができた」と語った。「技」「体」以上に追い詰められていたのは「心」だった。
番付の重みが薄れ、大関の権威まで揺らいでなお、あの双葉山でさえ苦しんだ横綱という地位の背水の重圧は、変わっていない。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ) 1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。