「自分で昇進ムードを盛り上げなくちゃ」千代の富士時代から様変わりした稽古総見の意義
「計画的に休む」「ペース配分」は最近の話
当時と比べると、霧馬山はアピールしたとも消極的とも言えなかったが、時代の違いもある。
元横綱武蔵丸の武蔵川親方が対談などでよく「俺たちの時代に『調整』なんて言葉はなかった」と言うように、引退するまでは常に強くなるための稽古、修業であり、初日2日前までみっちり鍛えるのがかつての常識だった。
実際には微妙に追い込み方の波をつくる力士や、そもそも稽古嫌いの力士もいたが、計画的に休むことなどなかった。ただ、強化や調整に関する知識が広まり、平均年齢が上がって古傷を抱える力士も増えた今、ペース配分を一概に否定できない面はある。
そうなると、委員の都合で日程が決まる総見でみんながいい稽古を見せろというのは難しいのではないか。その一日を、自分で考えて出稽古などに使いたい力士もいる。
総見で猛稽古をしたところでメディアが「ガンガン」取り上げる時代でもない。世の中にコロナ前の日常が戻りつつあり、再開してみたら意味や意義がよく分からないことが、あちこちにあるはずだ。相撲界で続いてきたことの中にも。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ) 1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。