「金澤翔子の世界 ダウン症の天才書家」大川原有重監修
「飛翔」「希望」「慈愛」「鎮魂」「愛」「笑」……。金澤翔子の書からは生きる力がほとばしり、見る者の心の奥深くに働きかけてくる。そこには確かに言霊が宿っている。
金澤翔子はダウン症児として生まれながら、書の才能を開花させ、東大寺で書展を開いたり、NHKの大河ドラマ「平清盛」のタイトル文字を書くなど、目覚ましい活躍をしている。若き天才書家はふっくらとやさしげで、全国各地で行っている席上揮毫(きごう)の会場は、いつもあたたかな喜びに包まれる。
純真無垢な翔子を「書の道」に導いたのは、母・泰子だった。翔子の書を集めたこの作品集の巻末で、母は娘とともに歩んだ20余年の軌跡をつづっている。
1985年、待望の子どもを授かって幸せの絶頂にいた母は、生後52日目に、娘がダウン症であることを医師から告げられた。ダウン症は普通の人より染色体が1本多いことから発症し、有効な治療法はまだない。母は奈落の底でもがき苦しみ、奇跡を願った。
娘が5歳になったとき、母は自宅で書道教室を開き、近所の子どもと一緒に娘にも書を教え始める。娘は天賦の才を示し、書は母娘を照らす一条の光となった。祖父、父、泰子と3代にわたって書に親しみ、精進を続けてきた血が養分となったのか、翔子は書の世界で大輪の花を咲かせることになる。