著者のコラム一覧
野田康文近代文学研究者

1970年、佐賀県生まれ。著書に「大岡昇平の創作方法」。「KAWADE道の手帖 吉田健一」「エオンタ/自然の子供 金井美恵子自選短篇集」などの論考や解説も手掛ける。

恋愛は「ビフテキ」と思って味わい、楽しめ

公開日: 更新日:

「人間滅亡的人生案内」深沢七郎著

 小説家にしてギタリスト、名作「楢山節考」で知られる深沢七郎はいわゆるインテリ作家ではないが、その型にはまらない音楽性豊かな小説は、今なお第一線の小説家にも評価が高い。しかし型破りなのは小説だけではない。人生相談「人間滅亡的人生案内」は、よくある作家の人生相談と思って読んだら、社会の常識や道徳にとらわれない深沢の回答に度肝を抜かれること間違いなしだ。

 何事も計画を書いてから実行したいという相談者に対して、何でも計画通りになどならないのに、「計画を書いてから実行するなんてバカ」だといい、一緒に酒を飲んで、慰めてくれる人が欲しいという短大生には、「貴女はパアじゃないかと思うほどあきれた考え」だとばっさり。恋愛の悩みには、恋愛はただの「精神病の一種」で、女は男の、男は女の「ビフテキ」と思って味わい、楽しめばいいと説く。はたまた、「親が子を愛することは悪行のひとつ」といった具合だ。なんだか薄情なようだが、不思議と読後感は不快ではなく、むしろ深沢の愛情が伝わってきて、前向きになる。

 一見ハチャメチャに思える深沢の〈人間滅亡教〉だが、その極意は、「他の動物たちよりすぐれている」という人間の特権意識を「不必要」なものとして滅亡させるところにあり、時にそれは目からうろこの発想の転換をもたらす。

 例えば深沢は、人は食うこと、セックス、排泄以外は「不必要」なものであり、「仕事はめしを得る方法で、そのほかは考えたいことを考え、したいことをすればいい」という。確かにそう思うと、楽になる。

 あるいは、恋人も友達もなくて寂しいという少女に、「ほんとに貴女は恋人、友達に対して飢えていない」と指摘する。なぜなら「寂しいなどと思うのは食事をするときおかずがマズイと思うのと同じ」で、腹が減ればオカズなどなんでもいいからだと。

 なるほど、人は絶対に必要なものはなりふり構わず手に入れるし、手に入らないとあれこれ悩んでいるものは、その人には「不必要なもの」に違いない。なぜならそれがなくても現に生きているのだから。

【連載】人生ナナメ読み文学講義

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭