トランプとは雲泥の差のはずなのに、一向に支持率の上がらないヒラリー。いまだ人気の夫ビルとは何が違う?
「ビル・クリントン」西川賢著
不倫が原因の偽証と司法妨害で下院に弾劾決議されるという前代未聞の恥辱にまみれた大統領。政権発足時の戦後生まれ初の若き元首のイメージは地に落ち、好景気に助けられた日和見の政治屋という印象を残したのがビル・クリントンだ。
しかし、若手政治学者の著者は「内政・外交両面で冷戦後に停滞していたアメリカの立て直しに辣腕をふるった優れた指導者」だと高く評価する。
不倫騒動と保守派からの弾劾劇は「モラルが完全に崩壊したアメリカ民主政治の不健全性」の露呈だと手厳しいが、クリントン本人については、抜群の記憶力やずばぬけた復元力を高く評価し、「政治家としての成功はひとえに彼の人格的優越によるところが大きい」と絶賛を惜しまない。
また、彼が民主党に導入した中道路線は遺産として定着せず、左派の後押しでオバマ政権が誕生。しかしこの8年間も大きな成果は挙げられなかった。この経緯はやはり中道路線を導入しながらむしろ共和党に保守化の種をまいたアイゼンハワー政権と似ているとも分析する。若手らしい丁寧な記述が好印象だが、ヒラリーについての言及が少ないのが惜しい。(中央公論新社 840円+税)
「ヒラリー・クリントン」春原剛著
ヒラリーの強みは大統領夫人、上院議員のほか、国務長官までという幅広さで要職を歴任したこと。つまり前回の大統領選出馬時と比べても格段に「プロ」の政治家だ。今回何かと批判される「ダーティー」イメージは「政治のプロ」への一般庶民の反感と見るべきだろう。
本書は日経の外交記者によるヒラリー伝。著者は日本の政財界と米政府をつなぐ連絡担当のひとりらしく、第4章「ヒラリーと日本」で(関係者には周知の)秘話を多々披露する。09年の訪日時、北朝鮮拉致被害者家族のほか民主党代表(当時)の小沢一郎との会談時の裏話などは本書ならではのものだろう。
ヒラリー政権誕生時は共和党でなくとも、これまで以上に付き合いやすいはず、と太鼓判を押すヒラリー絶賛本だが、彼女の弱点にも踏み込んでほしかったところだ。(新潮社 760円+税)
「アメリカ再生を掲げた大統領 ビル・クリントン」藤本一美著
大統領には全決定に自分が関わる中央集権型とスタッフに多くを委ねるおみこし型があるといわれる。
ビル・クリントンは前者。ただし独裁というほどではなく、組織運営は「垂直」より「水平」で、個別の案件ごとに少数のスタッフが動き、大統領と相談するスタイルだったようだ。外交の経験が薄く、国務長官(クリストファー)も存在感はなかったが、冷戦後の米一極化状況が幸いして「経済」に専念できた。前任のブッシュ(父)は外交のプロだったが、経済を立て直せず、湾岸戦争の勝利指導者なのに再選されなかったのとは対照的。
アメリカ政治研究者による手堅いまとめ。(志學社 2000円+税)