日露“ゴマすり外交”の昨今 改めて振り返るロシアの今昔
「軍事大国ロシア」小泉悠著
近年のロシアといえばプーチン大統領の存在感と軍事大国ぶりが際立つ。古くはモンゴル、近世はポーランド、近代にはナポレオンや独ナチスなどから侵略を受けた歴史があり、ピョートル大帝の時代からは徴兵制や先進国の軍事制度を取り入れる軍事化政策で近代化をうながした。さらにソ連時代には外敵の脅威による国内の締め付けが徹底され、ソ連崩壊後は逆に、共産大国としての過去の栄光が混乱した新生ロシアの貴重なアイデンティティーのよりどころとなった。
つまり「軍事」はロシアにとって歴史の中核をなす「文化」なのだ。
著者はかつて外務省で旧ソ連・ロシアの情勢分析を担当した軍事評論家。情報機関出身のプーチンは「強いロシアの復活」を唱えながらも、実は経済に軸足を置いた国力の充実をもくろんでいた。そのため軍事支出については抑制的な姿勢だったが、現在の第3期プーチン政権下では国防費が対GDP比4%を突破した。14年の経済危機の際も国防費は聖域化され、国防予算をめぐる「プーチンの変節」が見られるという。大衆文化から国家政策まで「陰謀論」がはびこるというロシアの国民性の分析が興味深い。(作品社 2800円+税)