記憶は睡眠中に整理される
「『睡眠品質』革命」内田直・高岡本州著/ダイヤモンド社 1620円+税
年を取ると睡眠時間が短くなる――。何度も聞いていた定説だが、まったくそんなことはない。最近、7時間寝なくてはどうにもその日の調子が悪くなってしまった。しかも、その「7時間」にしても、質が良くなくては意味がないと説くのが本書である。睡眠医学の研究者(内田氏=早稲田大学教授)と、快適な寝具の開発者(高岡氏=エアウィーヴCEO)の共著で「睡眠と身体・脳」の章と「睡眠と寝具」の章に分かれた構成になっている。
「赤ちゃんのレム睡眠時間は大人の倍以上」「レム睡眠とノンレム睡眠があるのは鳥類と哺乳類だけ」といったネタも挟みつつ、睡眠がいかに大切かを説く。
ここで例として挙げられたのは、生まれて初めてスキーをした時のことだ。最初は立つこともままならずボーゲンで少しでも滑ると恐怖のあまり止まったり、わざと転んだりすることもあるだろう。結局その日、リフトに乗れるまでの上達はせず、スキー場を後にする。私の場合は中学1年で初めて日帰りスキー旅行に行ったのだが、まさにそうだった。スキー板を担いで50メートルほどを登り、ノロノロと滑り、「寒い」「怖い」「痛い」と思うまさに苦行でしかなかった。
完全にスキーが嫌いになり、次にスキーをしたのは大学1年の時。この時は数日間泊まったのだが、初日は中学の時と同様のヘタクソさで、2日目には上手になった。ここに、睡眠が関係していると内田氏は説明する。
〈これは初日にやったトレーニングが睡眠によって整理され、より効率的な形で自分の中に入り、翌日、行動という形で実現できるという記憶の整理の一例である。運動だけではなく、一般的な記憶や学習についても睡眠中に脳の中で整理して、より記憶しやすい形で定着させることが知られている〉
つまり、エクセルの取り扱いやら、牡蠣の殻むき、英語の読解なども含め、〈脳のネットワークは睡眠で完成するのである〉ということなのだ。
このような睡眠が脳に与える影響を説明し、身体については、睡眠中は寝返りを頻繁に行う必要があると述べる。寝返りをしないと血液が体の一部に偏りがちになったり、体重が同じ箇所に集中すればその部分が圧迫され、床擦れになる恐れを指摘する。そして、寝返りをしやすい高反発の寝具が必要だとし、高岡氏がそうした寝具をいかに開発するかのプロジェクトX的展開になり、ビジネスマンは楽しく読めるだろう。
★★(選者・中川純一郎)