さまざまなタイプのおっぱいを愛でる
「乳房のある情景」伴田良輔写真・文
なぜ世の男たちは、こんなにもおっぱいに魅せられるのか。それは、まるで媚薬のように男たちをひきつけ、とりこにする。内から突き上げる欲望のはるか奥底に眠る、乳飲み子だった時の母親への郷愁がそうさせるのか。
そんな男心を存分に満たしてくれるのが、乳房のクローズアップ写真78点に掌編小説23編を添えた本書だ。
不思議なもので、顔がそうであるように、人体のパーツは、機能は同じなのに、各人それぞれ微妙に異なる。ご存じのように、乳房も例外ではない。
大小はもちろん、乳首を上に向けて反り上がったものや、釣り鐘のようなぽってり型など、そのどれもが魅力的だ。絶妙なるカーブ、ふくよかさ、そして乳首や乳暈がその丘にさまざまな表情をつくりだす。
カメラの前に立ったそれらの持ち主は、主婦、教師、声楽家、女子高生や理系学生ら、いずれも市井の人々。パートナーや子供たちだけしか知らない彼女たちの乳房を、自然光だけで愛おしむようにやさしく撮影する。
なぜ彼女たちは、見ず知らずの写真家の前に乳房をさらけ出したのか。写真家と自ら希望してモデルとなった女性たちのひと時の交感が写真家のHを主人公にした小説の形でつづられる。
各物語から、その乳房の持ち主の女性たちの容姿や性格、そして生きてきた半生の足跡が浮かび上がってくる。
Hは「できあいの単語で乳房をいいあわらすこと」を自らに禁じている。ひとつとして同じものがない乳房を堪能しながら、それぞれを表現するぴったりの言葉を探していけば、読者とモデルの女性たちとの間に、新たな物語が生まれ始める。まさに、大人のための「乳房図鑑」。(シンコーミュージック・エンタテイメント 1600円+税)