「寺と仏像手帳」土門拳著
北は岩手県の中尊寺から近畿・中部、南は大分県の臼杵石仏群まで、51の寺と仏像を収録した写真集。写真に添えた撮影時のエピソードや被写体の解説など文章も達者。(東京書籍 1600円+税)
■巨匠が再発見した日本の美
日本の写真史にその名を刻む、今は亡き巨匠による写真エッセー集。
氏が、生涯追い続けたテーマは、大きく静と動に分けられる。動がリアリズムに徹した報道写真群であるとすれば、本書に収録されているのは日本文化の美をテーマにした「静」の作品群である。
1970年に始まる旧国鉄の「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンよりもはるか前、著者は日本各地を巡り、日本の魅力を再発見していく。それぞれの場所は、今は観光地化して四季折々、内外の多くの訪問客であふれているが、当時は時代に取り残され、人影もなく閑散としていた。
ひとたびカメラを据えると、氏は被写体が最も美しく見える最高の光を求めて、何時間もひたすら待ち続ける。命を削るようにして撮影されたその作品には、被写体と氏が時に無言で対峙し、そしてある時は言葉のない会話を交わし、魂が触れ合ったその時間が凝縮されている。
撮影時のエピソードや被写体についての解説、さらに撮影旅行の際の助手たちのなんとも愉快な思い出まで、文書も達者。