「活版印刷三日月堂 星たちの栞」ほしおさなえ著

公開日: 更新日:

 活版印刷とは、活字という小さな1文字ずつのハンコみたいなものを組み合わせて作った版を使った印刷方式で、凹凸のある手触り感が特徴だ。日本では1970年代まで雑誌や単行本の多くは活版で組まれていたのだが、80年代の半ば以降は写植やDTPなどが主流となり、90年代に入るとほとんど姿を消した。それが近年、活版独特の味わいがふたたび注目され、各地で活版印刷が復活しているという。

 本書の舞台は、埼玉県川越にある小さな活版印刷所だ。

【あらすじ】川越にある運送店の営業所長・藤山ハルは、一人息子が北海道大学に合格し、近く家を出ることになっていた。卒業祝いに何かを贈ろうかと思いながら歩いていると、近所の三日月堂という印刷所に明かりがともっている。5年前に店主夫婦が亡くなって店を閉めていたはずだ。聞くと、店主の孫の弓子が戻ってきたとのこと。活字や印刷機が昔のままなのを見て、ハルは自分が三日月堂で印刷した名前入りのレターセットを卒業祝いに贈ってもらったことを思い出した。

 息子にも同じものをと思い、弓子に相談すると昔から祖父の手伝いをしていたのでやってみるとのこと。仕上がったレターセットは活版独特の風合いがあり、予想以上の出来だった。活版印刷を初めて見る若者たちにも大好評。自信を得た弓子は、思い切って三日月堂を再開することに決めた。すると、噂を聞きつけた人たちが次々に三日月堂を訪れるようになる――。

【読みどころ】季節ごとの俳句が印刷された喫茶店のコースター、「銀河鉄道の夜」の一節を栞に印刷して教室にちりばめた高校の学園祭、祖母の形見の活字で印刷した結婚案内状……。それぞれの思いが活字に込められ、温かな物語が紡がれていく。 <石>

(ポプラ社680円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    下半身醜聞の西武・源田壮亮“ウラの顔”を球団OBが暴露 《普通に合コンもしていたし、遠征先では…》

  2. 2

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  3. 3

    中居正広の女性トラブルで元女優・若林志穂さん怒り再燃!大物ミュージシャン「N」に向けられる《私は一歩も引きません》宣言

  4. 4

    広島ドラ2九里亜蓮 金髪「特攻隊長」を更生させた祖母の愛

  5. 5

    「二刀流」大谷翔平と「記録」にこだわったイチロー…天才2人の決定的な差異

  1. 6

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  2. 7

    元横綱・白鵬に「伊勢ケ浜部屋移籍案」急浮上で心配な横綱・照ノ富士との壮絶因縁

  3. 8

    いまだ雲隠れ中居正広を待つ違約金地獄…スポンサーとTV局からの請求「10億円以上は確実」の衝撃

  4. 9

    キムタクがガーシーの“アテンド美女”に手を付けなかったワケ…犬の散歩が日課で不倫とは無縁の日々

  5. 10

    悠仁さま「渋渋→東大」プランはなぜ消えた? 中学受験前に起きた小室圭さん問題の影響も