「江戸の夢びらき」松井今朝子著
浪人、間宮十兵衛の娘、恵以は6歳の頃、僧の入定を見ていた少年に威圧するようなまなざしを向けられた。それはかつて間宮の中間だった唐犬十右衛門の兄弟分、幡谷重蔵の息子、海老蔵だった。後日、恵以は海老蔵と一緒に人形浄瑠璃を見にいくことになったが、海老蔵が付き添いの唐犬組の若い者を呼び捨てにするのに驚く。
4年後、間宮に手習いを教わっていた海老蔵が姿を見せなくなった。父の重蔵は町の地子総代人だったが、海老蔵はそれを継がず、唐犬に頼まれて舞台に立つことに。恵以がその初舞台を見にいくと、太鼓の音の後、甲高い声が響いた。「われこそは山姥が一子、怪童丸なり」
「荒事」の開祖、初代市川團十郎の一代記。
(文藝春秋 1900円+税)