真夏の夜にオススメの文庫 怪談小説特集
「鬼門の将軍 平将門」高田崇史著
梅雨が明けた途端に本格的な暑さが襲ってきた。寝苦しい夜も始まるが、そんな時こそ怪談小説をお供にヒンヤリしてみては。怨念、ばけもの、心霊現象など、さまざまなジャンルの怖さを取り揃えた怪談小説5冊を紹介しよう。
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東京・大手町のビル群のはざま。そこには、触れた者の不審死が相次いだといわれる平将門の首塚がある。その塚が壊され、人間の生首が置かれるという事件が発生する。
主人公の響子が勤務する医療関係の出版社では、その話題で持ちきりだった。何しろ首塚の遺体は、社とつながりのあった深河医療機器の深河悟だというのだ。
その夜、地元京都の友人から響子に電話が入る。高校最後の夏休みに泊まった民宿の女将が殺され、しかもその様子はあまりにも異常だったという。遺体が発見されたのは、貴船神社の杉の森の中。女将は白い着物で木の枝から吊り下げられ、太いくぎで杉の幹に打ち付けられていたのだ。女将の名は深河亜紀子。首塚の生首の妹だった。
貴船神社といえば、父・将門を討たれた娘が怨念を募らせ、丑三つ時に参るようになったと伝えられる。本書には将門伝説も詳細に組み込まれており、歴史好きも楽しめそうだ。
(新潮社 590円+税)
「ばけもの好む中将 九」瀬川貴次著
時は平安。中流貴族の右兵衛佐宗孝は、ひょんなことから右大臣の嫡男にして眉目秀麗な左近中将宣能に気に入られる。将来有望な貴公子であるにもかかわらず、寝ても覚めても考えるのは怪異のことという変人だった。本作は、そんな凸凹コンビが都にはびこる恐ろしいばけものと対峙していく、平安怪奇冒険譚シリーズである。
9作目となる本作は、皇太后の父が建てた別邸「夏の離宮」が舞台。宴に招かれた宣能と宗孝は、邸内には夜な夜な不気味な物音がこだまし、現れては忽然と姿を消す女の姿が目撃されているという怪異を聞きつける。
実は離宮が建てられた土地では、かつて殿上人が妻を殺害するという事件が起きていた。さらに、娘にまで手をかけ、斧で斬殺した後、自らも庭の木で首をくくって命を絶つという、陰惨な出来事の舞台となっていたのだった。
(集英社 550円+税)
「家が呼ぶ」朝宮運河編
生活の基盤であり、安らげる場所であるはずの家。そんな場所で起こる怪奇現象は、逃げ出しにくいという意味からも怖さが倍増する。本書は、物件ホラーの傑作11作品を収録したアンソロジーだ。
中島らもの「はなびえ」は王道の“いわく付き物件”ホラー。調香師の梨恵子は、元カレで不動産屋の泉の紹介で、条件の良いマンションに格安で入居する。ところが、浴室からシャワーの噴き出す音が聞こえたり、1階のラーメン屋が煮込む豚骨のにおいが部屋に充満したりするなど、気味の悪い現象に悩まされるようになる。小説だけでなく、怪異の背後を調査してきたルポライターによる“実話”も収録されている。
ひどい金縛りにあった翌朝、リフォームしたばかりの畳がへこみ、大きな手形がついていたという女性の話。怪音が響き食器が棚から飛び出すなど、テレビでも取り上げられた岐阜の幽霊物件の例など、不気味な読後感の話が収められている。
(筑摩書房 900円+税)
「ゴーストハント1」小野不由美著
友人と怪談話に興じていた高校生の麻衣は、校庭の隅にある旧校舎の話を耳にする。以前から何度も解体工事が試みられてきたが、そのたびに作業員が病気になり、屋根が落ちて死者が出たこともあるという。
そんな話をしていたところ、麻衣は校内で渋谷一也と出会う。転校生と思いきや、彼は旧校舎の心霊調査を校長に依頼された「渋谷サイキックリサーチ」の所長だという。彼の調査の助手を押し付けられた麻衣は、次々と起こる怪異に巻き込まれていく。
2013年に山本周五郎賞を受賞した「残穢」など、ホラー描写に定評のある作品を執筆してきた著者。その原点ともいえる本作は、1989年から92年までに刊行された人気シリーズ。今年6月から文庫化刊行がスタートしている。
(KADOKAWA 720円+税)
「ヒトガタさま」椙本孝思著
高校生の麗子は、謎の女性からヒトガタさまという20センチほどの人形を譲られる。顔には目鼻の凹凸があるだけで、体も裸のまま。薄いピンクの体の中央には、縦長の切れ込みがあった。その切れ込みに髪など相手の体の一部を入れ、相手の名前を呼びかけると、相手の心と直接つながり、話ができるようになるという。ただし、使わない時には黒い袋にしまい、むやみに取り出さないこと。ヒトガタさまを袋から出すと、使っている本人の体重が1秒に1グラムずつ増えていくというのだ。
半信半疑だったものの、ヒトガタさまを通じて片思いの真太郎と話すことに成功し、有頂天になる麗子。ところが、親友の美希が実は麗子を蔑み、陰では真太郎と付き合っていると知ってしまった頃から、麗子はヒトガタさまに依存していき……。
思いを寄せる相手に近づける。しかし代償を払わねばならない。そんな時、あなたは自分を制御できるだろうか。
(幻冬舎 750円+税)